日曜日の処理場
空丸


   自分をいい人間だと思ったことはない
   薄っぺらいし 騙し騙し 取り繕ってきた
   でも たまには僕の鼓動に合わせてくれないか
   と甘えている間に
   犬が餌を強請る。
   小鳥が目を覚ます。
   小さな島の争奪戦が始まる。
   猫が丸く眠る。いい度胸だ。




  今日は金曜日だったんだ


月が綺麗だ 否、美しい そんな時ぼくはどん底だ
早起きした 街は待機している ぼくは寝不足だ

きょろきょろしながら手を引かれて歩いていた
犬の散歩と同じだ ただ母の手だった
なぜ こんな幼い頃の一コマを思い出すのか

きょろきょろしながら欠伸をし歩いていたからか
何も変わっていない そんなことを気付かせるために
わざわざ 母の手をこの世に戻したのか

何がぼくに起こっているのだろう
どん底にも見放されたのかもしれない


  一大事


のっそりのっそり 午前中
猫が歩いている
公園は 曇り空
尻尾がない そう思いながら良く見ると
ハイハイ ?
1歳に満たない乳児が地面をずるりずるりと進んでいる
顔をあげている 口は閉じている
これは一大事なのかもしれない


  三丁目の闇


生まれてから朝を見たことがない
みんな朝が来たと腕を伸ばす 猫じゃあるまいし僕は違和感しかない
朝が僕を絞め殺す 夜明け前よ永遠に続け 甘ったるい月光は似合わない 漆黒の闇であれ 音もなく 匂いもなく 風もない 闇の中の闇 星一つない宇宙 消えてしまいそうで僕は消えない
やっとか ここまで来て 微かに ぼんやりと発光しているだろう
それが僕だ
やっと見つけたかい


  大きな傷、小さな傷


かすり傷程度なら何度も負ってきた
負わせてきた
傷は癒えましたか、まだ疼きますか
気付かないうちに大怪我を負わせたかもしれない
今どうしているのだろうか
日記に深く刻まれている
誰にどんな大怪我を負わされたか
今どうしているのだろう
私は忘れることができない


  無風


日が暮れ また陽が昇る
あたりまえのことに心が向かうとき
もう怒りはない
風もない

逸れた鳩がじっとしている
群れに戻れるだろうか
気にかけながら通り過ぎる
通り過ぎてばかりだ

日記に「特になし」と書いた一日が
一番思い出深い
確か木曜日だったか
雨は降ってなかった


  余韻


ある朝 巨大な鐘が一つ 宇宙に鳴り響いた
全貌は骨片になって ――

今 瞼の裏で舞っているのは何だろう
桜だろうか 雪だろうか
今 土の下に眠っているのは何だろう
人の死体か 私の記憶か

死体から死が どんどん遠ざかっていく
掌に普遍があれば
いつまでも君を見守ってあげられるのに


  言葉と私


 『地球は青かった』

この人は色で表した
小学校の図書館で 少年の目は輝いていた
世界を変えるのは科学だった
青かったのだ 地上から見た空が宇宙にもあったのだ
『二〇世紀の記録』を読みあさっていた
そんな科学主義と合理主義の近代も終焉を迎えようとしている
 
 『面白き事も無き世を面白く』

少年でも青年でもない高校生の頃 世界は「面白くなかった」 
社会は「歯車」だった
そんな頃 あるドラマにハマった
価値観と革命 古いものを倒し新しいものを生む この面白さ・・・
彼もまた面白くなかった
「ものの哀れ」
面白くないー面白い この単純な白黒反転に
ぼくは乗った

 『明日世界が滅びようとも、今日私は林檎の種を蒔くだろう』

勉強もせず 働きもせず 港町をぶらついていた
寺山修二が編纂した「名言集」にこの言葉が載っていた
存在の通りに存在するのだ。
無謀な反撃はしない。諦めて逃亡しない。存在の通りに存在するのだ。
いつもの日常を、それが絶対的な「闘争」。
「人の覚悟」の軽やかさ


  ある家族の年越し風景


 大掃除

まず掃除すべきは掃除機と洗濯機だ。世間の埃を取り払わないと私自身が見えてこない。
母親:お父さんはどこにいったのかしら。
娘:久しぶりに銭湯に行って来るって。

 年越し

時を跨ぐ。大晦日から元旦へ。水溜まりを飛び越え損ねたあの日を思い出す。
母親:おじいちゃんはどこにいったのかしら。
息子:デモ行進に参加するって。

 冬休み

人は何故冬眠しないのか。熊が羨ましい。しかし温暖化は熊を眠らせない。宇宙から来た侵略者とは人間だったのかもしれない。
一年中休みのおばあちゃんは社会派SFを今年中に完成させたいと部屋に籠り命を削っていた。

 雪

雪が降ります。
雪が積もります。


  公表された独り言


高価な軍艦がかっこいいとは絶対子供には言わせない
十億円を何に使うか。金持ちは金の使い方を知らない。
自由、平等、平和、人権、人類はこんな言葉を持ちながら・・・
反貧困とは金持ちになることではない

君は部分を全体化する。自己責任ではない。
書きたいことが書けない時代があった。
システムの壊し方(創り方)は教科書には載っていない。試験にも出ない。
もう誰も体験者がいないから、復活するのか。復古ともいう。

税金を払った。誰に払ったのかよくわからない。
世間は怖い。という世間体が日常を支配している。
孤独な戦いをみんな経験している。もう隠す必要はない。

言葉は時代の外にはない。
詩は自分のことしか書けない。でも自分は他者だ。
たまにはスタンスを踏み外して独り言を公表してみたくなる


  形容詞が爆発した


そして、
形容詞が爆発した。僕は今朝、
たくさんの思い出を焼却処分した。
汗が吹き出し、手足が調和を失い、
首が噴射した。

花が咲いた。魚が泳いだ。なんでもない
ことに、いちいち大笑いした。
もうどうでもいい とは思わない。
プログラムは正確に働いている。
この街はもうずいぶん戦争をしていない。
といって、平和でもない。誰もが
武器を探し求めていた。猫が振り返った。

恵子ちゃんは、泣いた。鬼が笑ったので、
恵子ちゃんは泣いた。
そして、
形容詞が爆発した。


  この国は・・・


この国は・・・と書きかけて
他人事のようにいう私の手を見つめる次の私はふと
幼い頃の包丁の刃を いや想起された血を

押し寄せ引き下がる波 の音 繰り返し
繰り返し 奥深くから立ち現れる 同じ波形はなく 
波打ち際は月の軌道に同期し

予定表は空白だが雲が流れている 行き過ぎた君は
振り返って 合図 指で螺旋を描く 
選んだ覚えのないこの国で


  陽は薄く


テーブルの上に日々を置きっ放しにし この一行も
置きっ放しにし、否、ゴミ箱に捨てて
ゴミ箱も放り投げ

とりあえず小銭を持って
口笛は吹かない
新しいゴミ箱を買いに遠出する



自由詩 日曜日の処理場 Copyright 空丸 2021-06-22 21:10:18
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