生前供養
ただのみきや

二人の旅行

迷い込んだ蝶が鍵盤にとまった
ゆっくり開いて
ゆっくり閉じて
あなたは水へと変わり
音楽は彫像となって影を落とす
わたしは感覚と記憶
去るものと共に流れていった

家の外では夏の二人称が口を拭う
小指の骨を咥えた
とてもとても白い
       白痴の時間

棘のように
肉に埋もれた墓

狩り蜂たちの忙しない朝
柏の葉が光と影を天秤にかけて揺れていた
とおいとおい世界
       土偶の眼差し

始まりは定かではなく終わりは海
月に焦がれて鳴く真珠の声に
狂った心ふたつ 撚り合わせて
引き潮に降りた蝶
待ち伏せていた白骨を飾り
燃えるように色彩をほどく
声のないとおい笑いのように





心臓

耳にあてた後
遠くへ放って
紅い河の流れ
みじかい夜を
くぐる風の声





対極

幼児が描く母親の顔
画用紙いっぱいの顔
秘めた意味はなく
溢れる愛情がある
思想も計算もなく
無心な誇張がある





生前供養

根を掘り起こせば起こすほど
希望は白骨化し
世界はすでに滅んでいる
そんな人
日々を短い夢で埋めていく
大きな夢に疲れ果てた長い
長すぎる余生に
自らを供養する
ささやかに
添えて 灯し 飾っては
あるべき曖昧を続けている
そんな人
鍵の壊れた開きっぱなしの
でなければ
煙のことば
自分をほどいて還すなど誰が



             《2021年6月19日》







自由詩 生前供養 Copyright ただのみきや 2021-06-19 16:24:02
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