微熱の海
橘あまね

わたしをくるむあなたの器官を
海と呼んでみようと思う
なまあたたかい夜の渚に
白く浮かび上がるのは
何の兆候なんだろう

わたしは魚になってくるまれる
鱗のない最初の魚
満ちて、引いて
また満ちて
静かに運ばれていく深みで
呼吸を忘れてしまう
はんぶんの月

あたたかさはどこから来るの
昼のあいだに
こっそり貯えてあったの

たくさんの泡が
消え残って
星空みたい
散りばめたのはちいさな願いだから
そっとしみこんでいけばいい
満ちて、欠けて
また満ちて

遠いむかしの
始まったばかりの
赤っぽい夜の渚に
輪郭が生まれる前の細胞たちを
置き忘れてきたみたいだ


自由詩 微熱の海 Copyright 橘あまね 2021-06-12 16:45:15
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