気が付いたら綱渡りをしていたことを思いだした、ひとりで
道草次郎

とたんにきみはきみが綱のうえにいるのをしる
そういうのを
場面暗転というんだ

ヒマラヤのてっぺんに打ちつけられた杭があり
その杭からとおく伸びる綱の一閃
その綱はオリンポス山の頂に穿たれた杭へまで伸びているのだ

きみは両手を広げでバランスをとる
まるで大鷲のようだ
めまいをおこしそうだから
じっと瞑目して
いっぽ
またいっぽと歩を進める

寒風が首筋をおびやかし
くちびるは凍る
月は
ムーンは南西の空だろう
もう少しすすめば
ふたつのじゃがいもみたいな双子の月のお出ましだろうか

きみはむねのあたりが
わなわなとする
まだ火星はとおい
きみが息を吸うと
肺胞全てが運命にひざまずく

きみは
きみがめをふたたび開けたら
なにもかも元通りになると期待する

でも
きみは真空の鷲だ
そう
どこからみても
きみはもう引き返せない
そのことはよく知っているはずだ


自由詩 気が付いたら綱渡りをしていたことを思いだした、ひとりで Copyright 道草次郎 2021-06-07 18:47:17
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