竹と朝顔
板谷みきょう

朝顔が知らないうちに、つるを出していたので、竹の添え木をつけてあげました。

その晩のことです―――

朝顔は、とっても人見知りの恥ずかしがり屋なのに、竹は、とっても明るく朗らかでした。
「ねぇ、朝顔さん。僕は今でこそ、こんなに、黄色く汚れてしまっているけれど、前はそれは、それは、美しい位の青色だったのですよ。生まれた所は、ここよりずうっと南の、とっても素敵な所なんです。あぁ。皆どうしているのでしょう。一遍でいいから、帰りたいなぁ。」
朝顔は、ちょっとだけ顔をのぞかせ、竹の話を聞き始めました。
竹は、自分の生まれた所の話、おじいさんやおばあさんから聞いた昔ばなしを話しました。
「おばあちゃんの生まれるずうっと前にはね。月のお姫さまが、産まれたこともあったのですよ。驚いたでしょ。それに、おじいちゃんが子どもの時には、枯れ木に花を咲かせて、村中が大騒ぎになったこともあったのです。」
そうして、竹は育ってくるうちに経験したこと、ここに来るまでの旅のことなんかを話し続けました。

朝顔は、静かに耳を傾けて、聞き入ってしまいました。
暫くの時が経ってから、ふと竹は、思い出したように
「朝顔さんは、一体いつ咲くのですか。」と
ちょっと小声で、囁くように言いました。
朝顔は、顔を赤らめながら
「今朝、陽が昇ると同じ頃に…」と
本当に、小さな声で、答えました。
「ほう。」
竹は、ちょっぴり偉そうに言いました。

それからは、時が静かに流れていきました。
時々、竹が気まずそうに、「コホン。」と小さく咳をしました。

星は、そんなありさまを黙ってほんの少し、微笑みながら、眺めています。夜風が、ちょっとからかって、朝顔の葉を、カサカサいわせて通り過ぎていきました。

その間も朝顔はうつむいて顔を真っ赤にしていました。

陽が昇りました―――

綺麗な、本当に綺麗なお日さまです。

見ると庭には、紫色のはずの朝顔が、ちょっと恥ずかし気にうつむいて、小さな薄桃色の花を咲かせておりました。


散文(批評随筆小説等) 竹と朝顔 Copyright 板谷みきょう 2021-05-28 21:34:42縦
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