料理で俳句⑰ ボルシチ
SDGs

本日のお品書き~ボルシチ~


 ボルシチや一階五十円二階千円


 一物二価とはまさにこのことだろう。べらぼうめ、たいめいけん。ということで、私は専ら1階の人である。

 たいめいけんのボルシチは屑野菜のスープである。キャベツの芯、ジャガイモの切れ端、ニンジンのぞんざいな角切り、それぞれ一個づつ入った代物である。スープの出汁はなんだろ。牛骨かな?で、これがうまいかと問われればうまくない。ではまずいのかというとまずくない。ただ食べ終わったときにじわっと残るものがある。味の余韻といっては五十円のボルシチにはもったいない形容だが、あてはまらなくはない。で、おかわりをということになる。

 たいめいけんは食券制度になっていて、入り口正面にカウンターがありその奥に老嬢が座って切符のような薄い紙を寄越す。私を見て
「・・・(また来たよ、このボルシチ男が)・・・」
と無言で五十円と引き換えにボルシチ券を差し出す。
私は私で
「・・・(ほんとうはあと三枚は欲しいんだがなあ)・・・」

 私には食い物に関しては徹底するクセがあって、赤ナマコがあれば店中のすべてを食べてしまう勢いで注文するし、小ぶりでやわらかそうなアワビがあれば、ある分すべて平らげてしまう。河豚の刺身でも・・・以下同文。金を落とすということでは上客なんだろうが、多くの客に喜んでほしいとネタを仕入れた店にとっては迷惑な客なのだろう。誠に、相すまない。

 日本橋高島屋の横にあったたいめいけんは再開発エリアに指定されてしまい、日本橋川の川淵まで約五百mほど移動して営業を再開している。このコロナが終わったら行ってみるかな。一万円札を老嬢に差し出して
「ボルシチ五枚!」
言ってみたいのよ、どうしても。


               *たいめいけんの二階はコース料理がメイン。




俳句 料理で俳句⑰ ボルシチ Copyright SDGs 2021-05-23 11:08:44縦
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