理解可能
紀ノ川つかさ

世の中は壊れていった
人々が理解可能を捨てた日から
誰も彼も捨ててしまった
理解可能を捨ててしまった
自分は心優しい人間だと自負する
言葉の使い手までが口にしなくなった

長年の闘争の中で
妥協を強いられてきた
車いすの弱者が
無人駅まで電車で行きたいから
今すぐ人を派遣しろと叫び続ける
妥協はさらなる敗北につながる
だから叫び続けた
しかし無理な注文だ
多くの賛同も得られない
だがしかしこれは理解可能だ
そこには理解可能がある
しかし人はもう
冷たい言葉しか浴びせない
あんなのはただのクレーマーだ
弱者だなどとは笑わせる

戦争に散った魂は
あの神社に行くのだと
そして名誉ある魂になるのだと
教えられて信じてきて
今も信じている
長年通っては祈りを捧げ
魂の名誉を誇り
平和には感謝した
しかし国家というシステムによって
思い込まされてきただけだ
だがしかしこれは理解可能だ
そこには理解可能がある
しかし人はもう
冷たい言葉しか浴びせない
あんなのはただの犬死にだ
名誉などかけらもない

人は冷酷になった
人は考えなくなった
人は人を許さなくなった
人は人をすぐ嘲笑するようになった
人は人との分断を当然と思うようになった
人は人に正しさのため自分に従うよう
要求ばかりするようになった
理解可能を捨てた日から
理解可能を捨てた日から


自由詩 理解可能 Copyright 紀ノ川つかさ 2021-05-17 22:09:00
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