ローカルな回転
空丸

 ローカルな回転


星が一回りし 年があけた
宇宙飛行士は軌道をまわりながらアイデンティティを確かめる
あたりは冬で
ぼくは炬燵に入って蜜柑を食べる 方言で
人々はたくさんの比喩を背負って行き来する
水曜日の鳥たちはぼくたちより早く目覚め羽をつくろっている
島からでることもなく
再び まわり始める 標準語で


 入り組んだ路地


規格外が次世代の規格をつくる
と起死回生の物語を語られても
腹が減っていては
自分に素直になれない
陽が昇っても 陽が沈んでも


 その時 その時 小刻みな減り張り


なんだかんだいっても 選択です
偶然に対する防備です
世界の本質を知ることです
あたりまえを問い返すことです
自身を掘り返すことです
欠伸が出たら寝るのです
素直に自身に従えることが羨ましいです


 羽根布団


時空は常に個人的だ
いつしか 重いものを抱え
人が生きていることを知る
星空の漂いに
何者でもないことを知りつつ
書いている
意味も無意味もなく
ただ有ることに ただ無くなることに
いちいち文字を選ぶ 
深淵は何もかも眠らせる


 春


雪解けだろうか
水の音で
目覚め
飛沫をあげながら山を下っていく
滝となって 川となって 水路となって
私の血は逃げ場を失っていく


 水平線の上に満月


水平線の上に満月ですか
繰り返される波の音が加わりましたね
この単純な構図は
ぼくを受け入れてくれるだろうか
寂しさは極めつけの優しさなのだろう
染みのように浜辺に座る


 窓を開けると心の時間


窓を開けると雨はあがっており
希望に満ちたファンタジーが本の中にある
世界がどんなに動こうが
思い出は停泊したまま揺れている
風や雨が日常に置かれ
ひび割れた星はぼくを笑わせる
笑うしか術がない
どうやら死ぬようです
いつかこんな一行を創る時がくるのだろう
時計は刻々と忙しいが
単位を持たない心の時間はたっぷりある


 梅雨明け


夢は見ることができるがこの手につかめない
朝、目の前という距離感に
未来という彼方が立ち塞がる
私は甲高い声でおはようと世間に向かう
現代には奴隷も皇帝もいない 誰がそんなことを信じているのだろうか
梅雨が明けたようだ


 真夜中


時計は朝に向かっている
ぼくは真夜中に留まる
太陽がいない真夜中が好きだ
うちの猫も真夜中が好きだ
暗闇の中で時々見つめ合っている いい時間だ
ベランダに出ると月が出ている
月光さえ眩しい
風が真夜中をすり抜けていく
真夜中はぼくに留まる


 社会の真ん中で遊んだ疲れ


残業して作った最先端技術のTVで
くだらない番組をやっている
ぼくは番組内容(目的)よりも解像度(手段)が気になりますが、
できれば、番組も最先端であってほしいと思うのです


 ある日


寝たと思ったら、もう朝だ。
雪が積もっている。
足を組んで爪を切る。
無駄に宇宙が広がっていた。
玄関には傘と靴がある。
最初に笑った者は何に笑ったのだろうか
涙と笑顔はどちらが早かったのだろうか


 浮遊物体


得体のしれないものが浮かんでいる
球体なのか
立方体なのか よくわからない
時々 雀がとまる
もう一年以上浮かんでいる
雨で落下するわけでもなく
風に流されていくわけでもなく
そこに 浮かんでいる



自由詩 ローカルな回転 Copyright 空丸 2021-05-16 10:40:25縦
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