きりんのかそう
帆場蔵人

(Q.きりんはくびがだいたいどれくらい
のびるんですか?)

私は街の雑踏のなかのきりんを見たことがある
長い首で歩いているだけで、窓を覗いていると言われ
足下がおろそかになり、ひとにぶつかり謝っている
頭が高い、のだと、謝るさまなのかと責めたてられて

エラい人の凱旋の垂れ幕に
引っ掛かり申し訳なさそうに
きりんはあまりに、なかない

ただ、身を縮めビルにもたれて、身動ぎしなくなって
そんなきりんを省みるものは、もう街を出て故郷へと帰る
人々だけであり、それにしたところで、どうしてやる事も
出来ずに草や水を与えて次第に毛艶をうしなう脚を撫でて
気まずそうに目を伏せて、去っていく、私もそうであった

きりんはきりんの居場所にいたら良かったのか

今ではきりんの体はあのビルの壁に写りこみ
親子連れや観光客が記念撮影をしているのだ

あのきりんを責めるひとはもうなくあのきりんは忘却されて
このきりんは遥か昔からそうであったように認められている
きりんの魂はどこに行ったのだろう、ときりんの足元で
シュラスコを売るブラジルから来た男に尋ねると肩を竦め
串に刺したシュラスコと釣り銭を差し出し、

「クニでオフクロさんが首を長くして待ってるだろう、と
言われるんだ。きりんはあんたのオフクロさんなのか?
違うだろ、あんたのオフクロでもないのになに気にするの」

そう言って首をとんとん、と叩いて笑った
その流暢な日本語に喉が震えて私は黙った
きりんのかげろうシュラスコは喉を焼いた

帰りの雑踏のなかで首の短い動物と私はたくさん
すれ違った、特急電車の車掌に切符をみせながら
きりんの魂まで、というと車掌は首をさすって

あなた、本当にきりんを見たのですか

と、問うから僕は、いいえ、と

(A.はっきり言ってわかりません!
でも、首と頭の長さは、だいたい、同じらしいよ)

だいたい、ちょうどいい長さの答えできりんを諦め、笑った


自由詩 きりんのかそう Copyright 帆場蔵人 2021-05-13 02:26:04
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