詩人たちの末裔 Ⅱ
アラガイs


僕はチョコバーを一つ取り出して彼に与えた
(ところできみは虐待されたから逃げ出してきたはずだよ、誰に苛められたの?)

一口チョコバーの先を齧るときみは不機嫌な顔して応えた。
(あなたが彼らを追い払うからです。私は無理に逃げ出して来たんじゃない。彼等は私の育ての親ですからね。産みの親とは違う。だからいきなり鞭で撲たれても唾を吐きかけられても私には耐える義務があるのです。)

そう応えると彼はチョコバーの棒を中ほどから噛み切った。
(きみは虐待されても平気なのかね。それとも虐待とは思えないから平気なのか、どっちなのですか。)

脚をぶるぶると震わせて苛ついているのがわかる。 そして大きな口を開くと残りのチョコバーを目いっぱい口に含んだ。 溶けたチョコレートの脈が口もとから床を伝う。精神の方は大丈夫なのか。  ( あなたは明らかに私のことを変化させたいと考えているようだが、それって偏見な見方をしているからですよね。 私は叩かれても罵られても、例え地獄に蹴落とされてもよいが相手が彼等であるならば我慢しなければならない。何故ならば彼等は貧乏で教養もなくて可哀想な生い立ちを背負っているからですよ。それに比べてあなたはどうですか。何も苦労などして育ってはいない。温々と与えられるままに生きてきたんじゃありませんか?そんなあなたから彼等を引き離す権利はない。私には許せるのです彼等のことが…)

口にこそ出さないこのようにこころの内を隠している様子に思えた。
この驢馬は明らかに嫉妬し憎んでいる。そのくせ自分の病を誇らしげに語る癖。私にはそう思えた。

旦那、別れた妻の子供の帽子をね、ちょいと絵文字がイカしてたんでふざけて自分のと交換してくれよ。って取り上げたことがあったのですわさ。そしたら、まあ子供がいきなり大声で泣き出して、オヤジからもらった物だって、そりゃもうたいへんな騒ぎで、驚いたでげすねあたしゃ。あれだけ母親の苦労を見ててもやっばり肉親はかけがえのない錘。ようわかったでげすよ。
で、苛められたのかい?って訊くと頸を振るんだなこいつが、近所の噂話しじゃずいぶんと苛められていたらしい。もうようわからんでげすね。子供のこころってやつは。あはは。

ああ、あの驢馬のことですかい。やつは首吊ったでげすよ。なんでも眠ったようにほっこりした顔をして死んでたらしいんでげすがね。まあ先天的な異常性にずっとやられてたんですわね。よく持ったもんだ、はは。
気が狂うほどの運搬で躰を酷使させていた夫婦の方は今でも健在ですがね。じゃが男の方は太り過ぎて糖で眼をやられて内蔵壊してからは片脚引きずって歩いてますだよ。女房に手を添えられてヨチヨチとね。はは。何者も世をはばかる、でげすわ。あはは。

へへ。あれも運命ですかね。生まれた場所が悪かったのか。それとも時代のせいなのか。いまじゃほら、どうぞこちらの舘へ御驢馬様でげすよ。
あっしのほうがよっぽど身分は低い。それでも人間ですよ、あっしも。旦那、旦那様、ところで旦那と呼ばれる貴方様は人間でげすかね。あっしにはわからない。あっしも眼をやられてますんでね。いまじゃ泣き声が驢馬のように詩を奏でるんでげすよ。詩を。  そう、ありゃあ気持ちのいい声だが、人様に聴かせたらどうも不味いらしい。
 子供らが急に泣き出すんでさ、涙を浮かべてね。それがいいのか悪いのか、あっしにはどうも見当がつかない。困ったもんでげすね、はは、はあ…。     
ところで、といっておいて彼は魂を声に乗せて生き返ったのだ。天上との対話吉増剛造編。詩人だね。歌手の佐野元春氏は。何しろ思い込むという世界観の強さそれだけでも詩人というカテゴリーが付いてくる。そう、詩を認めない振りをして自虐ネタ拾う前に先ずは思い込むことだよ。あはは。







自由詩 詩人たちの末裔 Ⅱ Copyright アラガイs 2021-03-28 03:12:27
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