笑顔
道草次郎
雨粒がポタリポタリと落ちるのを
ショッピングモールの四階の暗い駐車場で
一緒に見ていた
やわらかい君の太ももはあたたかかった
じっと雨粒を見つめているその長めの睫毛は
ぼくにとてもよく似ている
ぼくもその時
初めてそれを見る人のように
雨粒を見ていた
やがて遠くの軽ワゴンの後部座席から声がして
君はピクリとする
そのピクリに締め付けられる何かを感じ
スニーカーをキュッといわせ
つむじ風のような気持ちで車の方へ戻る
5mむこうにママがいて
とびきりの笑顔とジェスチャーの花束を抱えている
それに気付いた君は
キャッキャと両脚をバタバタさせながら
ぼくの下っ腹を勢いよく蹴る
帰宅してから独り
ママが撮ったその時の写真を見た
まるで
笑顔の方が顔に貼り付いて来たような
君のとびっきりの笑顔
その横で困り顔の男が少し眩しそうに
両方の目を細めている
写真を見るまでは
区切られた奥の空に
陽のあることは気付かなかった