笑顔
道草次郎

雨粒がポタリポタリと落ちるのを
ショッピングモールの四階の暗い駐車場で
一緒に見ていた
やわらかい君の太ももはあたたかかった
じっと雨粒を見つめているその長めの睫毛は
ぼくにとてもよく似ている
ぼくもその時
初めてそれを見る人のように
雨粒を見ていた

やがて遠くの軽ワゴンの後部座席から声がして
君はピクリとする
そのピクリに締め付けられる何かを感じ
スニーカーをキュッといわせ
つむじ風のような気持ちで車の方へ戻る

5mむこうにママがいて
とびきりの笑顔とジェスチャーの花束を抱えている
それに気付いた君は
キャッキャと両脚をバタバタさせながら
ぼくの下っ腹を勢いよく蹴る

帰宅してから独り
ママが撮ったその時の写真を見た
まるで
笑顔の方が顔に貼り付いて来たような
君のとびっきりの笑顔
その横で困り顔の男が少し眩しそうに
両方の目を細めている

写真を見るまでは
区切られた奥の空に
陽のあることは気付かなかった








自由詩 笑顔 Copyright 道草次郎 2021-03-21 08:41:24縦
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