アルビノ
佐々宝砂

そのとき私は十六歳で
まだ何も罪は犯していないと思っていた

電車に乗って席に座ろうとしても空いていなかったので
つり革をつかんだ
そして
向き合った席にいる人の姿に
私は驚いて
目が離せなくなった

その人の髪はまっしろだった
肌も白かった
まつげまで白かった
まっしろなのに日本人の顔をしていた
その人は男の人で
眠っていて
うっすらといびきをかいていた

知らない人をこんなに注視してはいけないだろう
ということは私にもわかっていた

でもその人は美しかった

その人は眠っているので
じっくり見ても怒られないだろうと思って
私は自分が降りる駅までずっと
その人の白いまつげを見ていた

罪だったと思っている
罪であろう
私は罪人である

あの人はとても美しかった
それはあの人の罪ではない
そして私はあの人の瞳の色を知らない


自由詩 アルビノ Copyright 佐々宝砂 2021-03-17 23:26:00
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