文章の森での出来事
道草次郎

文章の森に
本の生る木があった
こっちの枝には推理もの
あっちの枝には時代もの
てっぺん辺りに専門書
棘の節には官能小説
若芽には児童書
ある日のことである
その木に甘い砂糖のような雷が落ちた
びっくりした本たちは
次々と木から落っこちてしまった
こんがり焼けたパイの匂いが漂い
おびき寄せられた森の動物たちによって
あっという間に
本のパイは平らげられてしまった
それからというもの
文章の森には本の実らない木が
ブスっと突っ立ているだけ
下草のような言葉が一面に蔓延り
森に迷い込んだ旅人を
いたく惑わしているそうだ


自由詩 文章の森での出来事 Copyright 道草次郎 2021-03-15 18:35:43縦
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