つぶやかない(二)
たもつ

 
 
塩水を買って帰る
安かったから、と妻に渡すと
またこんなもの買ってきて
そう言いながらも大事そうに抱えて
海に帰っていく
今日のおすすめはこれです
テレビの人が言った
(午前7:07 · 2021年2月22日·)


耳の音が鳴る
理由も隙間も溶けてしまえ
雪の降り積もる動物園を思いながら
今日初めて爆弾を作った
役場の防災行政無線から
美しい音楽が流れる
季節で時刻が異なると最近知った
(午後6:29 · 2021年2月25日·)


バス停で何台も
バスをやり過ごしました
そうすればいつか
春になると教わりました
おはようが好きなので
これまで何度もおはようしました
好きでなければしませんてした
今、門から人が出てきた
あれが私の家です
(午前6:56 · 2021年2月26日·)


神様がレジ打ちをしていた
不手際があったようで
お客様に怒られていた
申し訳なさそうにしていたけれど
それが感情なのかはわからなかった
予報より早く降り出した雨
傘を忘れた神様も私も
濡れて帰るのだろう
(午前11:04 · 2021年2月27日·)


ねえ、しるべすた
今朝、すたろおんを
無くしてしまった
どこかに落としてそれっきり
しるべすた、
すたろおんは大事なもの
すたろおんは大切なもの
でも、いつか忘れて
生きていける
死んでいける
しるべすた、今日もわたしたち
風に向かって息継ぎしている
(午前6:49 · 2021年3月1日·)


子供たちが手遊びをしていた
楽しそうだった
多分楽しい遊びなのだろう
雨上がり、滑りそうなものを
踏まないように歩く
町外れまで行くと
小さなお葬式があった
(午前6:54 · 2021年3月4日·)


飛行機が墜落した
幸いなことに紙飛行機だったので
乗員乗客は軽症で済んだ
黄色いジャケットを着た男の人が
皆を整然と並べていく
良い季節になりましたね、と
毎年人は言ってしまう
(午前7:30 · 2021年3月5日·)


両親がいて
兄がいて
僕がいて
僕だけがいない
郊外にある壊れた
ファミレスの前を皆で通る
よくここで食事をしたね
不在の僕が
思い出を話すように話す
(午後3:46 · 2021年3月7日·)


駐車場の隅にあった
湾の清掃をする
沖合では数隻の漁船が操業している
その間にも階段は増設され続け
繁栄の驕りは時として
爽やかな風を吹かせる
やがて駐車場は満車となり
湾は閉じる
(午前7:25 · 2021年3月10日·)


舌の根が乾く
嘘はまだ温かい
路地に面した窓を開ける
安い油の臭いがする
あらかたの友人は
正確な声も忘れてしまった
今日一日を
何かに感謝して生きても
許されると思う
(午前6:55 · 2021年3月12日·)




自由詩 つぶやかない(二) Copyright たもつ 2021-03-12 19:59:09縦
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