詩集1
ナンモナイデス






一億年後


人がいなくなって
空が青く澄んでいます
ロボットだけの地上になって
考古学者もいないので
地下のことは
また秘密になってしまった
ようです
静かです
ロボットたちは酒も飲まない
恋もしない 博打もしない
楽しみといえば
背中のソーラーパネルを
洗いっこすること
ぐらいでしょうか
地球は以前とあまり変わりません
オーストラリア大陸の北上で
ユーラシア大陸の極東に
新しく巨大な山脈が
形成されました





止どまる時間


詩を見つめていると
私の時間は止まる
見つめざるを得ない詩を
見つめていると
今が消滅し
永遠な時が開かれる
その中で心おきなく
好きな詩を楽しむとしよう
夜の短さなど
気にとめる事も無く





理想/特に怪物


喜びは 遥かに
遠い
無い ようも たとえ
無人称  ほほ 笑む
笑み 永―遠
無形な 六指 理解され
理想とする 種・族・系…
浄化サレル
させて いや させると
遠―永 笑み
極限 lim n→∞xn
グロ 生体 死体 グロ
語りえぬ 博物学者
主語は怪物です
小野小町は死体です
フランケンシュタインの
切断 断絶
レーニンの眼窩上隆起
腕が 縮み肥大する
先天 後天 ミュータント
人工的な
敵対する自然
なぜ なぜ なぜ なぜ なぜ 
なぜ なぜ なぜ なぜ なぜ 
創造者と破壊者の愛
胚胎する時間
神話が分散するとき
怪物は復活する





ポップダンゴムシ


公園で
ダンゴムシと遊んでた
秋になると落ち葉が
ヒラヒラ落ちて貯まるので
おいしいそうな落ち葉を
探してゴソゴソ
這い回るダンゴムシを
ダンボール箱で作った
迷路の中に入れてやる
しばらくは驚いて
ダンゴになっているが
しばらくすると
チョコマカ歩き出す
行ってはゴツン
退いてはゴツン
を繰り返し
なにくわぬ顔でゴールする

それを見ていたホームレスが
俺が捕まえていた
100匹ほどのダンゴムシの
入った箱を盗んだ
厳つそうなオッサンで
怖かったのだが
その後を尾行することにした

着いたところは公園の
裏のほったて小屋だった
オッサンは落ち葉を集めて
焚き火をしていた
小屋の中に入って持ってきたのは
フライパンだった

焚き火のうえにフライパンを置いた
その頃夕闇にあたりが包まれた…

温まったフライパンに
さっき盗んだ箱の中にいる
ダンゴムシをほり込んだ
しばらくするとまるで
ポップコーンがはじけるときの様に
ポーン
ポーン
という音がしだした
オッサンはできたてホカホカの
ポップダンゴムシを
一粒ずつ口にほおりこんでは
焼酎をぐいっと飲んだ
焚き火に照らされて
見えたオッサンの顔は
満月よりも満悦だった





5億年前の注文


5億年前
私は甲冑魚を
NGC 4449銀河の
寿司屋で注文した
大きな銀河は
小さな銀河を食う
共食いを繰り返し
満腹し爆発した
星の雨がキラキラ降る
骨の無い傘を
広げると
甲冑魚が跳ねたので
刺身にして
食った





七日


七日で俺は生まれた
俺は七日笑った
七日で夢が死に
七日で目を殺した
七日に穴を開けると
穴は七日生きた
俺が穴を覗くと
七本の歯が見えた
七日で七日が終わり
俺は七日の墓を建てた





母からの贈り物


陶器の
小さな
入れ物に
小さな
ショコラが
数個綺麗な紙に
包まれて
入っていた
母が「今日はチョコレートあげる日やろ」
といってうれしそうな
顔をした
私と兄の二人に
贈ってくれた
もう27年も前のこと
兄と甘いショコラを
二人向き合い
瞳で見つめあって
ニガニガしく
たべた事を思い出す


私は未熟児で生まれた
子育ての心労からか
その二年後
母は片目を失った
オリンピックで世の中
華やいでいた頃の追憶
学校へ行きだしても
集団登校になじめず
挙句の果てには
狂言を演じ登校拒否
までやってのけ
一騒動をしでかす
小学生時代はかなりの
問題児の私であった
おかげで成績は無いも
等しい有様だったのだが
作文や詩を書くと
ほめられる事もあった
そんな私でも4年も経つと
慣れとは恐ろしいもので
学校に慣れてしまうと
勝手に違う班に入り
登校するようになる
母の付き添いもいつしか
要らなくなった…


母は現在八十半ば
盲目で
股関節脱臼で片足が不自由
認知症が爆発する時もある
それでもいたって元気で
よく食べて
大きなウンコも出す
介護ベッドの手すりを持ち
パジャマの下をずらし
年よりは若いお尻を
「ポン」っと一発たたき
「私十八よ」
といいながら用をたす
私はそのたびに
母のいぼ痔の肛門と
我々兄弟の生まれ故郷である
母の陰門を眺めている





バラード


三連のバラードがすきです
時には静寂に
時には狂おしく
僕の詩につけてください
死臭の嗅ぐやぐ
永遠のバラードを





ミモザを飲みながら…


ストックキャラクターが
だんだん消えてゆくね
寂しい事だ、

スター・システムを
維持していくには
もう
コリアスターか
チャイナスターか
インディアスターか
でないと
ダメなのか

ミモザでも飲もうかな

あの子
踊っていたよね
気分よく
若いから寂しくないんだな

僕らの
誰もが知っている
ストックキャラクターが
何人無くなってもさ

月が綺麗だ

月光仮面なんかも
誰も知らんように
なるんかな
いつの日にか

踊っているよ
寒いのに
ミニスカの中
見えてるよな

ありがとうね

枯れたおじさんに
恵んでくれて

「クシュン」
風邪ひくよ

あの娘に
思わずおじぎしちまったよ
ミモサでも
ないのに





こんにちわ日本


今日も夕方のニュースで
孤独死をやっていた
このニュースの次のニュースは
変態男の孤独な犯行の隠しカメラの映像のO・A
次はなんだったかなぁ
そうこうしている間に
いつものお天気おねえさんが
かわゆく白い指示俸を魔女のように使いながら
明日のお天気予報を告げている…
一応この人たち皆
日本人なんですよね
先祖がここにいたからいるんですけども
戦争でやられても
原発でやられても
平気なんですよ
この国の人々は
バレンタイン来るのを心待ちにしている
恋人さんたち
あなたたちがいるかぎり
この国は続いていきますよ
権力者やエリートさんたちは
あなたたちがいればこそ
君臨できるのですから
人間の地位や価値など
所詮相対的にしか決められないんですから
それとも殺し合いで決めるかなんですけどね
この国の将来なんて多分今まで同様いい加減でいいんです
真面目になんてもともとできないんですから
間違ってもイデオロギーなんてありません
でたらめなマニフェストしか書けないのです
くだらない日本語でね…
英語なんかでまともな文書なんてうっかり書いたら
えらい事ですよ
だませなくなるわけですから
だから日本語でいいのです
日本人でもわかんないんですからね





節分黄粉


お寺の境内は
豆まきを待ち構える
人びとでごった返している
どっちが鬼だか
わからない形相で
老若男女入り乱れて
撒かれる
煎り大豆をひたすら奪い合う
〈福は内 鬼は外〉
取られず地面に
落ちた豆は
地獄の罪人の如く
情け容赦なく
人びとに踏んづけられる
そのたびに
無慈悲な
野蛮さに抗議するように
癇癪も起こせない
癇癪球のような
豆地雷は
ぽんぽん断末魔をあげ
破裂し合い
ささやかな黄粉になる
星雲の爆跡を
思わせる
豆の成れの果てを
僧侶達は箒で
厄を掃き清めながら
黄粉を集め
後でそれを
花壇に撒いておく
春には綺麗に 
花壇が華やぐようにと
祈りながら






1904 ツィゴイネルワイゼン



    ロマの人が
   ロバに荷を乗せ
  音の中を
 駆け抜けて行く



ガイゲは

G   C D E♭

ツィゴイネルワイゼン
を奏でて


   指の短い男が弾いて
   首の長い女がうつむいて

   世紀初頭の
   陰鬱さ



 ロマの人が
  ロバに屍を乗せ
   音の中を
    消え去って行く






          *ガイゲ
           独語・ヴァイオリンの事。






落楽園


枝の 長針と短針が 愛しあい 

時を 具現化すると 

生き活き 飛びまわり 来ては去り 去っては来る 

二匹の 黒い蝶が 失われていく 

木箱の 中では 

今を ひたすら 軟らかに 惜しむ ことなく 

裂ける 〈蛹〉 が 秒 を刻む


自ら偶然でも 偶発でも かまわず 

そうした 何者かに 拘束された 

循環を 契約させられて しまった

男や女の 行き着く 楽園は


ただ古臭い 宮殿に 招かれて 

賞賛と羨望 を貪り喰う 事でも ないし 

犯罪と逃亡の 繰り返しに 辟易して

国歌が 組織する 税立暴力団に 出頭し 

二人仲良く 投獄される 事でも ない


安いホテルに 寝泊り しながら 

屋上へ 向かう 螺旋階段を

二人で 昇る

寝ながら 泳ぐ鳥の 愛らしい 

無防備な 本能の 透明性を 呪いながら 

昇降運動を しなければ 自殺も出来ず

子供にまで 指を指される 生き地獄に 

自ら転げ 堕ちてしまった


彼らを 救うものは おそらく 

悪徳を 糧とし ケ虱のように 人の恥部の 淫らな血を

嗤いながら 吸い尽くす

世間では 真面目に 仕事を こなす そんな

精神科医にでも 無条件に 依頼して 

狂人に 変体 されて しまう 以外に


この世での 男と女の 楽園は たぶん

どこにも 開かれて などいない のだろう


と思われる





詩人とはそういう者


ちょっと真面目な詩を書けば
誰も読まない
少しエロい詩を書いてもそのようだ
みんなオリジナルな
詩を望んでいるにもかかわらず
結局は平凡なありきたりの
なんの思想も無く
なんの叫びも無い
今だけの快楽を共有するだけの
矮小な詩を望んでいるかのようだ
一瞬きらめきすぐに忘れ去られる
それがわかっていても
詩は書き続けられるのです
いくら技巧的に優れていても
有名作家の詩であったとしても
それは自分の詩ではないからです
だから今日も私は
私の詩を書くのです
勝者の贋物さを嗤うために
勝ち馬に乗って有頂天の騎手が
振り落とされ昇天していくのを
嗤いをこらえながら
見送っている観客の
一人のような
秩序の破壊者で
あり続けたいのです
詩人とはそういう者だ
と思うのですが…








自由詩 詩集1 Copyright ナンモナイデス 2021-03-10 20:52:50
notebook Home 戻る  過去 未来