焼き場にて(改訂版)
宣井龍人

口元から読経がながれる
もの言わず燃えたぎる焼き場にて
圧倒的なあの世が降りてくる

惜別をぶち抜く感情のほとばしり
わなわなと肩が共鳴する後ろ姿
人目を払いのけ崩れ落ちる黒影

命に区切られた向こう側で
貴方は何の遠慮もなく燃えている
果たしてこんなことが許されるのか

一滴まで身ぐるみ吸いとられた海
まとったベールを引き剥がされた砂漠
棺やら壇やら壺やら哀れな置物たちよ

死というだけでは何も読めない
彷徨い続けた証をみながら
この世にあの世を支払い続ける

焼き上がったお骨は行儀が良い
表情を置き忘れた長箸を持ち
貴方は最後の熱さに包まれて

ここにはあるべきものはある
しかしいるべきものがいない

遠くの大鏡をふと見ると
映っているのは
貴方だった何かと
私のような人だった


自由詩 焼き場にて(改訂版) Copyright 宣井龍人 2021-03-09 20:44:32縦
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