エミリー・エミリー
いとう




エミリー
あなたと最初に出会ったのは羊水の中
あなたは何も言わず
私を蹴って押し出してくれました
あなたはそれっきりそのままで
難産だったと語る母にあなたのことを訊いてみたのですが
母は何も答えてくれませんでした
母は何も答えず抱きしめてくれるだけでした

エミリー
次に出会ったときあなたは
蝶の羽化をじっと見入っていましたね
私はまだ立って歩くのがやっとでしたが
その時初めてあなたの名前を決めました
エミリー
とても良い名前でしょう?

エミリー
あなたはいつも
真っ直ぐな視線を私に向けていました
私にはそれが重すぎて
時々は目をそむけたりもして

kindergartenであなたは
園内をうろつく野良犬でした
園長はどこかに電話をしてすぐに
あなたはどこかに行ってしまって
私は怖くて何もできませんでした
エミリー
怒らないでください
私はまだ無力で守られるべき子供だったのですから

私はどちらかと言えば繊細な子供で
junior highではbaseballより読書を好み
teacher's petと陰口を叩かれていましたが
エミリー
あなたはそんな私をひっそりと
そしてしっかりと見つめていましたね
私の席の右後ろ あなたの視線を
私が知らないとでも思っていたのですか?
エミリー
笑わないでください
私はまだ恋なんて言葉は
辞書の中でしか知らなかったのですから


  エミリー
  あなたとは
  人生の至るところで出会いました
  必然とは言えない偶然の確率
  望むと望まざるにかかわらず


壁の花の卒業パーティー
あなたはその年のqueenに選ばれて
一瞬だけ目と目を合わせてくれました
私はcollegeではなくuniversityに進み
裕福な学生として勉学に励み
そして徴兵中に出会ったあなたは
信じられない扱いをしてくれましたね
幾度となく挫折しそうになったけれど
エミリー
この私がきちんと義務を終えることができたのは
少し矛盾してるかもしれないけれど
あなたが教官だったからです
ありがとうエミリー
あなたでなければ私は

そしてエミリー
あなたは笑うかもしれないけれど
こんな私でも結婚できたんですよ
私はただ物静かなだけで
臆病なわけではないのですから
順調な日々
仕事も上手くいき
すべては予測された幸せの中
エミリー
もう野良犬も怖くありません
恋だっていくつか覚えました
そうやって私は成長して
エミリー
そうやって私だけが成長していって
だからエミリー
あの時の涙の半分はあなたに向けられたもの
私の子供が生まれる瞬間
エミリー
あれは確かにあなたでした
エミリー
あなたのことならなんだって知ってます

ねぇ エミリーあなたは
生まれて来たかったのですね
そうなんでしょう? エミリー


  エミリー
  あなたとは
  人生の至るところで出会いました
  必然とは言えない偶然の確率
  望むと望まざるにかかわらず
  泡のようなあなたは
  たゆたう流れの中で


最後にエミリー
白状しますエミリー
私はまだ準備ができていないのです
あともう少しで逝くというのに
私はまだ怖いのです
エミリー
だからエミリー
もう一度
私を蹴ってくれませんか
押し出してくれませんか
羊水の中のあなたの小さな足の感触を
私はまだ覚えています
そして約束します
エミリー
私はもう何もわからない胎児ではないので
エミリー
今度は一緒に
二人で一緒に
次の世界へ
エミリー
エミリー







自由詩 エミリー・エミリー Copyright いとう 2003-11-24 11:52:14縦
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