大根論文
道草次郎

役立たずの大根の種、それを見極める方法を知っておられるだろうか。
それは、水に浸してみることだ。
しばらくするとプカプカと浮いてくるやつがある。それが、たぶん高確率で芽の出ない種だ。中身がスカスカで浮い来てしまうという訳だ。大体はその方法で無駄な地べたを使わなくて済むようになる。

けれど、たまに不思議な事が起きることもある。
生来のドケチ根性も手伝ってか、試しにそこいらに撒き捨てておいたこの落第種が、ふとした拍子に芽を出す事があるのだ。しかも、それがなかなかどうして、立派な、太い大根となる事があるのだから不思議だ。

そんな事が起きると、何だかへんに喜んでいる自分がいて、いつもより目いっぱい引き抜いてしまう。そういう大根に限って、その太さと長さたるや逞しい事この上ない。
そして、これは脚色ではない事を予め断っておくのだが、そんな大根は、往々にして、先っぽのところが微妙に、セクシーに、クロスしている可能性が高い。

さて、夕餉である。
とりあえず先っぽ(お尻)は辛いけれど、そこは味噌をつけて生で頂戴する。なんだか、それが妥当な食べ方のように思われるからだ。あとは煮るなり焼くなり炙るなり漬けるなり、好きにすればいい。

口説いようだが、役立たずの種から育った大根の脚はセクシーにクロスしている可能性が高い。否、極めて高いと言っても良いだろう。

何を隠そう、じつはかの不可思議なる事象についての論文、これを近々「大根の脚学会」に提出しようと目論んでいる最中なのである。

それにしても先っぽ(お尻)の辛い事と言ったらない。いつまでもそれは口中を騒ぎまわり、収まる気配すら見せないようなのだ。





散文(批評随筆小説等) 大根論文 Copyright 道草次郎 2021-03-06 17:48:26縦
notebook Home 戻る