点火
すいせい
ただその時が過ぎていくのを待っていた、嵐のような夜の、焦りに似た感情はひたいに汗を記述し、確かな、また不穏な外気はそれを凍らせる、服の中にこもる粘着く湿度の中で何度も何度も描写は続く。水音一つしなかった、いわば死体置き場の片隅で、汚れた掌の中で、白い小さな華が咲くのを待っている。口元から立ち上る蒸気が汚染された空気を振動させる、花弁には雫が取り巻いて、流せない涙の代わりにすすいでくれるだろう。けれど私は待てずに掌をこすりあわせてしまう。咲くことなくちぎれてしまうその茎を見つめる瞳の色は冬。消えてゆく一瞬の温もりを求めて、また失っていく。
孵ったばかりの雛の弱々しく柔らかな様子、可愛らしいね捻り潰して原稿用紙を染める。詩語を殺して腹を割いた、赤く赤く、沈んでいく炎のような
葉をしずり
落ちてゆく雪の
なんと重い音か
生え揃ったばかりの
歯から零れる
声を読む
つみかさなったあわいを
伝わるしずく
それを暗喩する
本に指を挟んで
その熱を感じる
死の模倣から
解き放たれた羽根が
肩にとまり
窓の外のに拡がる
弾け飛んだ光の針
「食ったのですね
過去は現前する
すり減った言葉によって
凍りついた
唇の隙間から
もし風を生むのであれば
杖のさきに闇を叩く
従者の恭しさで迎えよう
窓を開けて
寒さに夜着をはためかせながら
死者を包む毛布の
毛羽立ちを
剥ぎ取られた湿ったブーツの
強張りを
落下する前に
巻き戻すことの出来ぬ不幸を
言葉は多く費やされてしまった、脆弱な詩語を死体に変えて私の掌は汚れている、その指に再び白い花を摘む覚悟はあるのか、君は足を揃えて黙って見つめる、雪の止んだ平野には足跡すらない渇きが、温もりで溶かしてしまえば啜れる滴りすら許されず、くちびるに知らぬ名だけを点火する
自由詩
点火
Copyright
すいせい
2021-02-22 12:32:23縦