無題
空丸

空がある
雲はない
宇宙飛行士が今日の仕事をしている

  *

独り今日に留まり
呼吸に委ねる
凍りついた世界に
小さな穴をあけ
釣り糸をゆっくり垂らす

  *

僕が来た道に横断歩道はあっただろうか。
君はぼくをちゃんと渡れただろうか。
雨の日に投函した手紙は、
晴れの日に届いただろうか。

  *

少女が十字路で空を見上げている。
上空の戦闘機はどこへ向かうのか。
明日、君はどこを歩くのだろう。
まだ資本主義を歩いているのだろうか。

  *

何年生きたのだろう。
川辺のベンチで、
白髪の老婆が、風にあたっていた。
何もなかったように。

  *

ひざっこぞうを陽にかざし、飛行機雲を一本ひく。
西瓜の種をどこに飛ばそうが自由だった。
あの頃はどうでもよいことなど一つもなかった。
遊び疲れた子どもはくるくる回りながら子宮に帰る。

  *

何人かの思い出の中にぼくがいて適当に処理されているのだろう。
白黒の縁側で笑っていた。
後ろ姿は朝に向かっている。
最終ページは書きかけのまま。

  *

知らない街を歩く
足音高く 但し気付かれないように
恋の始まりのように
戦場のように

  *

私をデザインし
街角に私を置いて
景色を変える

  *

死体から死が遠ざかる
にわか雨

  *

見上げても答えはない
だから空があるのだろう
庭先では
雨があがったようだ

  *

波が粒になり
余韻が薄化粧して 時の
奥へ奥へと誘う
発見された涙の化石

  *

朝を迎え
未知も既知も溜息のように吐き出し
標識を作る

  *

宇宙がどのようになっているかいつか科学は突き止めるだろう
宇宙がなぜ在るのか誰も永遠に分からないだろう


自由詩 無題 Copyright 空丸 2021-02-21 00:50:19縦
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