妻咲邦香

アスファルトが選ぶ雨は
どうしてこんなに優しいのだろう?
遠い昔に私が持っていたものを
まるで知っているかのようだ
 
まだ誰も数えたことのない数字が
見つかってしまうかもしれない今夜
音になる前の、言葉になる前の泣き声が
誰かの帽子の中で印刷される
 
掠れながらも声は肌にすぐ馴染む
時に手足と呼ばれる容れ物に
無数のラベルが貼られ乱反射を繰り返す
手に入れた鱗は朝専用
若しくは忙しい人向け
その一枚一枚にカメラが内蔵されていて
シャッターを押す毎に見知らぬ日常を剥ぎ取り
鱗へとすり替える
 
私は魚なので空撮は拝めない
そのかわり水面越しに本物の空が見える
それは流れと共に震え
常に歪み、淀み
それこそが真の街の正体
信号機は歌うように色を吐き
車も人もそれを飲み込むように合いの手を入れる
本当は悲しい歌だってあるのに
 
アスファルトに選ばれた雨が
いつまで街に留まって、いつ空に帰るのか?
帽子の中で覚えたばかりの歌は
どうしてこんなに優しいのだろう?


自由詩Copyright 妻咲邦香 2021-02-10 23:04:54
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