とおくを みつめなさい
砂木


さかさまつげ と診断され
父に手をつないでもらって
眼科に通って いた頃

診察してくださった先生は
遠くをみつめなさい と言った

遠くの山の緑 遠くの景色を
とても 眼にいいからと

テレビは三十分以内と言われて
部屋の窓ガラスに写ったテレビをみてて
叱られて 泣いた
みたいアニメもあった
みんな見てるのに自分が見られないのが
かなしくて いやで
私の眼を心配して 叱り付ける父母に
家族になきわめいた

とおくを みつめなさい

時々 お医者様の言う事を思い出し
黙って窓から 
山や木々をみつめた
静かなだけで 何と言う事もなく
ただ ゆるやかに ひそかに
みどりにひたった
小学生には 退屈なだけだった

とおくを とおくを みつめなさい

手術なしで 眼が直ったのは 先生と
家族の 私のいるところでは
テレビをつけないという 協力のお陰
消す事にする と チャンネルを切った
父こそ テレビくらいは見たかったのだな たぶん
でも 眼科の帰りには いつもバナナパフェを食べた
もしかしたら眼科が嫌いじゃなかったのは 
パフェにつられたのかもしれない

とおくを とおくを とおくを みつめなさい

また 眼科に通い
三十数年も前の事を思い出し
あんなに 大事にしてくれた眼を
粗末にして
決して 甘くなかった家族
あまいバナナパフェ と私

とおくを みつめなさい
とおくに 煙るような緑

とおくから とおい窓から
しかたなくみつめる 未来

とおく とおく とおくを みつめなさい




自由詩 とおくを みつめなさい Copyright 砂木 2005-04-20 22:06:32
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