運命の分岐
mizunomadoka


職場でお寺の話になって
昔あなたと行ったお寺のことを思い出した
名前も場所も憶えていなくて
ネットで調べていたら
手が滑ってあなたの家を見てしまった
恐ろしいことに十数年の移り変わり写真まであった
知らない車が停まってる
自転車の種類が変わった
庭の金木犀がきれい

胸の動機がすごかった
こんなに動揺すると思わなかった
感じるより考えるより速く
私の心はそれを取り戻そうと走りだした
もうひとつの人生!
もうひとつの心臓!
机の前に残された私は
冬の発電機みたいに白い息を吐きながら
ディスプレイをただ凝視してる

初めてのデートはスケートだった
わたしも小学生のとき以来だから
そう笑ってあなたはクルリと回った
立つのが精一杯な私の両手を引いて
外周をゆっくりと滑っていく
いちにーいちにー、そうそう上手!
リンクの中央でフィギュアの子たちが
妖精のように舞う
私たちみんなでメリーゴーランドみたいだね

車輪で雪を巻き込みながら
列車は発射台のある湖へと向かう
食堂車では新年を祝う人々が
カウントダウンを始めている
バーカウンターの酒瓶と
チョコレート箱をバッグに入れて
貨物室に戻る
トイレ脇のバルブで熱湯を椀に注ぎ
固いパンを浸しながら食べている
六等車の乗客たちにそれを渡す
ガタンゴトンガタンゴトン、
窓に反射する老いた私
もうひとつの未来の記憶

銀河の浅瀬に浮かぶ星々
太陽に照らされていた青い水球
記憶を束ねたモノリス
暗闇の海
光よりも孤独







自由詩 運命の分岐 Copyright mizunomadoka 2021-02-06 07:47:11
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