古本屋来訪
道草次郎

ひさしぶりに古本屋にいき
古本をみてまわった
買う金がないのでおやじと話をした
ひさしぶりに人と話す
しかも本のことがわかる人と話すのは
何年ぶりだろう
数年前の岩波文庫の充実ぶりを褒め
クレジオかネーゲルをさがしているフリをする
おやじはジャズのレコードマニア
文学はまあまあ識ってる
以前来たときよりおやじ
ずいぶん老けたなあ
ひとしきり駅前通りの区画整理の話をし
紙の本の廃れに無難な相槌をうつ
「お客さん、20代?ああ30代ね。研究者さんかなにか?」
吹き出しそうになり思わず言ってしまう
「とんでもない。ただの労働者ですよ、しかも失業中の」
店を出て雪が溶けたばかりの
てらてらした道路をトボトボ歩く
そして
こころの中でこうつぶやく
(労働者?…ただの?…労働者。なんてこった。ああっ!なんてこった!)
雲間からはへんな明るさの陽ざし
今夜もまた
湿った重たい雪がふることだろう



自由詩 古本屋来訪 Copyright 道草次郎 2021-02-05 00:21:19
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