T4
紀ノ川つかさ

原発事故から十余年
突然変異でタマキンが四つある
男子が生まれるようになった
彼らはT4と呼ばれ
その数は増加していった
それまでのタマキンが二つの男子は
便宜上T2と呼ばれるようになった

T4はT2の二倍のタマキンを持っている
精液がよくたまり性欲もすこぶる強い
性犯罪者も多かったが
総じて生命力にあふれ活動的であり
人口に対する割合も増え
たちまちこの国の主導権を握っていった
この国は今やT4が動かしているのだ

T4は肉体の優位性を誇り
T2を蔑んで差別的な発言が急増
特にとばっちりを受けたのは二子玉川で
ニコタマの略称はT2を連想させるため
使わないでくれという住民の訴えにも関わらず
ニコタマ住民はたとえT4であっても
やいこの劣等人間などと
バカにされるのであった

そこにさらに事件が起こった
宇宙人が地球を侵略しにやって来たのである
人類との間に戦争が始まった
高度な文明を持つ宇宙人に対し
対等に戦えるのはT4だけであった
T2は活躍できず足手まといで
メシを食って生きてるだけで
財政を食いつぶし地球戦力を弱めるだけの
生きるに値しないニコタマキンなどと
呼ばれ迫害されるようになった

ここに至りT4である指導者は
次のような政策を打ち出した
「T2はいかなる処置をもってしても
 T4になることはできない
 従ってその境遇を厳格に鑑定した上で
 特別に指名された医師に
 彼らが置かれている悲惨な境遇から
 救出する裁量を許可する権限を与える」
要するに医師の署名があれば
合法的に殺すことができるのである

この政策に対しもちろん反発が起こった
「T2だからって殺されてたまるか!
 タマキンがいくつあろうが
 それはただの個性じゃないか」
それを聞いてもT4は笑うばかりであった
「私達人類は長い歴史において
 身体的障害を個性だなんて
 認めたことは一度もないのですよ
 T2は今や人として劣った活動しかできず
 それはもはや障害なのです
 生きるのも苦しいでしょう
 不幸でありこの先も不幸でしょう
 この不幸から開放してさしあげるのです」

対象となるT2は灰色のバスに乗せられ
施設に送られガス室において
次々と死を迎えた
バスは日に何台も通る
それがどこに行くのかを誰もが知っていた
T4の子供達は
また殺人バスが通るねと笑い合い
バスに向かって小さな手を振るのだった

タマキンとは関係ない女性達は
この惨劇には巻き込まれなかったが
ある日ビーチクが四つある女子が生まれ
B4と呼ばれ
概ね同じ運命をたどることとなった


自由詩 T4 Copyright 紀ノ川つかさ 2021-02-01 19:50:19縦
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