黒い聖母像
中田満帆



 かぜに嬲られながら 立ちならぶ信号燈に被いをかけた 知り合うことのない貧民たちが テペヤクの丘のうえで聖母を守るために教会を建てる 聖母は悪魔のおもいつきか それともかれらを征服者に代わって守護するものなのか 霊場にしつらえられた祭壇のうえで 微笑みかける偶像、両の手を使って祈ることのなぐさみ そしておなじ一日が永遠につづくような感覚で、ひとが通り過ぎる わたしはかれらの眼を見つめて ただ去ってゆくだけだ 褐色のインディオ、メヒコから通勤快速で72時間 ずっとなにかに怯えながら 月の化身のような女がずっとわたしの隣を離れないでいる やがてたどり着いたとき、かの女の姿は消えていて しかしかの女の体温だけが残っている ドアがひらき、プラットホームへ降りたときだ、巨大な、黒い聖母像が改札のむこうにしっかりと立っていた。


 


自由詩 黒い聖母像 Copyright 中田満帆 2021-01-31 16:25:20縦
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