染みの在処
妻咲邦香

一人旅を覚えたあの日
握り締めた切符の温もり
まだ掌に残っている
初めての出会い
在る筈だった身体の一部のように
再会を喜び、同じ血を通わせた

何処へ行くのも一緒だった
何を見ても、何を食べても
スタンプの赤いインクが親指を汚して
思わず拭った
まるで子供のように

生まれたばかりの心は風を知らない
何処かで誰かが見ている同じ景色
雲の形が教えてくれた
世界はもっと遠いと思っていた
美しいものは最初から汚れていた

鍵のかかった部屋の何処か
あの日の夢が今も眠っている
もう通わなくなった血が寝息を立てて
終わった夢を見ている
淡い恋が教えてくれた旅の方法
親指が消えない染みの在処を探し始める
いつか乾いた血の跡を子供のように拭き取って
地球はもっと赤いと信じていた

その日、切符を財布にしまった私は
ホームへの階段を駆け上がっていった
急ぎ足で
たくさんの人とすれ違いながら


自由詩 染みの在処 Copyright 妻咲邦香 2021-01-28 13:45:05
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