ペイスリー
妻咲邦香

あなたみたいにゆっくり生きられたなら
そう呟きながら
その細い指先摘まんで額に押し当てる
ひんやりとした感触が
あなたの優しさなんだとわかる

私の指はどうやら幸せを掴むためじゃないみたい
お財布が見つからなくて
お昼ご飯の用意もう間に合わない
キッチンガーデンの片隅
露を弾くペイスリー
光を身体中浴びながら
そんなに不幸じゃないよと笑う

あなただって鳥のように歌えない
私だって真っ直ぐ愛を伝えられない
走れば電車にまだ間に合う
私には2本の足がある
行って来るよ
行って来なよ
ペイスリーのサラダは未完成だけれど
あなたとこうして話が出来て良かった

誰の心にも深い森があって
どんな種も時が満ちて芽吹く
私は幸運を待つ
薄っぺらな鞄と書類の束を抱えながら
名も無いあなたが風を待つように


自由詩 ペイスリー Copyright 妻咲邦香 2021-01-27 12:45:36
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