耳元でポエムが囁きだした頃から
こたきひろし

間違いなく
誰一人
物心ついた正確な日時を記憶してるなんて
不可能だ

それ以前に時間の認識と言う
重要な鍵を握らなくてはならないのだから

物心を手にした頃なんて
遥か遠くでかすかにぼんやりとゆれる
蝋燭の炎みたいなものだろう

物心ついた頃
私の家族は八人だった
そこから一人欠けた日の記憶さえ曖昧なのだ

祖母が突然病死した
遺体は棺桶に押し込められ
棺桶には棒があてがわれ
棒は両端を二人に担がれて
先祖代々の墓場に運ばれた

棺桶はあらかじめ掘られていた墓場の土の中に埋められて
儀式は終了した

それから家族も親類縁者もまわりの他人も
祖母の存在を忘れていった

祖母が家から
この世界から姿をけした事がきっかけになって
私は死を強く認識し
何よりも怖れるようになった

私は思い出せない
いつから私の耳元でポエムが囁きだしたのかさえ

家族の離散
家族の生き死にが
もしかしたら私の耳元でポエムに変化して囁きだしたのかも
しれない

夜中に胸が騒ぎだすんだよ
何者かが言ってくるんだよ
書きなさい
書きなさい
書きなさい
何でもかまわないないから

吐きだしなさい
胸に湧き上がる思いを

何でもかまわないから



自由詩 耳元でポエムが囁きだした頃から Copyright こたきひろし 2021-01-24 06:26:44
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