空の憩う処
塔野夏子

何もない
仄昏さだけが立ちこめている

空たちがおとずれてくる
幾枚もおとずれてくる
それぞれの世界を覆うのに
疲れてしまった空たちだ
日や月や星を宿し
雲を抱き雨や雪を降らせることに
疲れてしまった空たちだ

此処に来れば空たちは
何も覆わず
何も宿さずにいられる
また自らの身を何色に染めることもない
解き放たれて
ゆっくりと憩う

やがて自らの世界に
戻ってゆく空もいる
ここで眠りについたまま
ついに目ざめない空もいる

立ちこめる仄昏さは
空たちにだけ聞こえる
ララバイ あるいは レクイエム
空たちを包んで
ほかには何ひとつない この時空を
尽きることなく 満たしつづける




自由詩 空の憩う処 Copyright 塔野夏子 2021-01-15 13:31:38
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