世界からもしも3つ消えたなら(短編小説)
月夜乃海花

「あのー。」
23時過ぎ、私はいつも通りに既に寝る体勢に入っていた。
「あのー?」
男性とも女性とも言えない不思議な声が聞こえてきた。身体を起こすとそこには不思議な何かが掛け布団の上で毛づくろいしていた。顔は猫と兎を足して2で割り、それに馬の身体を持った大型犬サイズの何かである。人間、本当に驚くと声すら出ないものでその生物のような何かを見て、気のせいだと考えてもう一度寝ようとした。
「契約したのは貴方ですよね?」
謎の生物が語りかけてくる。
「何がですか?」
「3つのやつです。」
「3つ?」
「貴方が消したいものを3つだけ消す代わりに貴方の命を頂戴するという契約ですよ!」
「はあ、知らないですね。」
「そんなまさか!ここってT市のO区の__。」
「それってN県じゃないですか?ここ、M県ですよ。」
「えっ。けん?人間世界って、けんがあるんですか?」
「そうなんですよ。では、寝ますね。」
「ダメです!起きてください!僕は急がないといけないんです!」
突然、生物は部屋の中を走り出した。ガシャンガシャンと家具が揺れる音がする。
「まずは落ち着きましょうか。息を吸って。」
「すぅー。」
呼吸器官はなんと耳にあったようで耳の近くの皮膚がヒクヒクと動いている。なんなんだこの生物は。
「吐いて。」
「ふぅー!」
謎の生物が息を噴いた途端、私の掛け布団は壁へと飛んでいき、その他のものも壁へ飛躍し、床は散々な状態と成り果てた。
「あっ、ごめんなさい!ああ、僕は悪魔なのにこんなだからダメダメの堕落魔って言われてしまうんだぁ!」
しくしくと泣き出すその生物を面倒なので堕落魔と呼ぶことにした。ちなみに最初に咆哮をあげようとしていたが、仮に私がそれを止めなければ世界が崩壊しかけたというのは後に知ることになる。
「堕落魔さんはその、ノルマ的なのがあるんですよね?」
「ノルマ?カルマではなく?」
「えっと、なんと言ったら良いのかな。人間にも仕事というものがあって__。」
その堕落魔に人間社会について説明するのに何十分か経過した。
「そうなんですね。人間って大変だなぁ。毎日、やることをやらないと怒られるんですね?僕と同じだ。ちなみに怒られたら何が起きるんですか?」
「怒られたら何が起きるって、どういうこと?」
「怒られたら僕は餓鬼道の戦火洞に足をずっと漬けてないといけないんです。」
「餓鬼道のえっと、なあに?」
話を聞くと要は地獄の中のマグマの様なところに足をずっと漬ける必要があるらしい。軽く拷問の様なものだ。
「そこまではしなくて良いかな。ただ、怒られたら少し凹むかも。」
「凹む?」
「落ち込む。今の堕落魔さんと同じ感じ。」
「なるほどー。人間って面白いなぁ!」
耳がピクピクと動いているがこれは恐らく鼻息が荒くなっている様なものに見えた。むしろ、この生物は自分の今の状況を理解してないように思えた。
「とりあえず私は明日、『仕事』があるから寝ないと。」
私は結局寝ることにした。元々不眠症で眠れないから睡眠薬を飲んでいる。にも関わらず、睡眠薬の眠気を無視して起こされるものはなかなか辛いものがある。
「待ってくださいよぉ!3つ消して欲しいもの教えてぇ!」
「ノルマと不眠と君かな。」
「はい!わかりました!」
シュルシュルと煙が出るような音が聞こえる。その後にああああ!と悲鳴の様なものが聞こえたが無視することにした。その後、夢を見た。
「人間よ。悪魔を退治してくださりありがとうございます。」
「何がですか?」
「あの悪魔は人の願いを叶える代わりに人の魂を喰うそれはそれは恐ろしいものでした。叫べば世界を壊し、何度も地獄の奥底でくつろぎそれはそれは何とも言えぬ恐ろしいものでした。ですが、貴方の願いによりそれは消えました。」
「はあ。」
「お礼に貴方が欲しいものを3つだけ、与えましょう。」
「貴方の正体と、安定した睡眠とそうね、あの変な生物の平和な生活かな。」
「わかりました。それでは。」
夢はそこで終わった。

目覚めると見たこともないぬいぐるみがそばに置いてあった。猫とも兎とも言えない顔、馬の身体。この生物はある意味救われたのかもしれない。そして、この日以降少しずつだが楽に眠れる様になった。理由を考えたら上司が突然優しくなったのだ。どうやら最近、結婚したらしい。のちに上司の結婚式に参加することになるのだが奥さんは夢に出てきたあの女性と何処か似ていたような気がした。


散文(批評随筆小説等) 世界からもしも3つ消えたなら(短編小説) Copyright 月夜乃海花 2021-01-09 21:07:44
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