明けの宵に
Giovanni

凍てつく明けの宵
痛い位強い風の中
揺らぎ燃える炎を見ていた
暗い空気の間で
所在なくぼんやり手をかざしていると
子供の頃に商店街で毎日見かけた
もうこの世にはいない煙草屋のじいちゃんが
何故だか頭に浮かんだ

ノモンハンだかで半分死んだように生き残って
帰って来た
そう言っただけで あとは後は煙草を旨そうに
ぷかりぷかりと吸うばかり

蒙古の冬はきっと寒かったろうね
針葉樹の太い薪を焚き火台にくべながら
じいちゃんが火を前にしながら
凍えていた夜の草原を思った

この世界の凍てつく草原で
がたがた震える僕の中で
確かに今は生きていないじいちゃんは
夜明けを一人待っていたはずだ
存外 人の存在というのは
爆ぜた火の粉のように
自分ばかりにとどまらず
どこかで人の思いを宿り木に
ふわふわと在り続けていくのかもしれない

熾火もいつか灰になり
小さく狭い軍幕に押し潰されるように
疲れた 
眠った


自由詩 明けの宵に Copyright Giovanni 2021-01-03 12:38:10
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