ちっぽけ
田中修子

やっとたどりついた水死体が
黄緑の棘のある 白薔薇のいばらのしたに
寝っ転がっていて 飛び出た澄んだ眼玉で
悪咳が流行ってから澄みゆく空を
わらうように泣くように眺めている
しずかに
夜明けの水平線のようなうす紫色のくちびるで
なにかを 祈りながら

 土の上

季節外れの花たちが咲いている
陽春・朱夏・秋冷・霜天 あらゆる季節を
輝く宝石として敷石にしました 桃、濃い緑、燃える赤、琥珀でできている
この道

亡き人の
立ち寄る小国だからね、すこしばかりおかしくって
同じ時期に咲くはずがなくとも
十二単で口元を覆い
枝垂桜の淡さ、あかしやの鮮烈な金、野薔薇の、灼けつくような紅葉を
さらさらと和紙に写していくだけの
わたくしどもは、番人、
白い野薔薇をのぞき込んだら、真珠がいたよ
喪われた人の、呼吸たち

 ここは これでいい

幸福の青い鳥が二羽、囀りながら飛び交っていて、
いくら食われてもなくなることのない、水死体をついばみ、
糞から種が落ち、そうして花々が咲き
白い野薔薇に巣をかけて

 どこまでも生態系だ。こうもりの咳だ。みンな、九相絵図だ。

淡い紫にも見える、灰色の雲がやってきて
青と金の破片を降らせる雨なんです。
「佳雨(かう)だね」「さうです」ふふ、

雲の上には金の星を抱いた夜空が果てのない、
わたくしども死んだらすべて巡りゆくのです、
人が喪われたとて(百年後には忘れられている、肺の弱い、わたくしのいき)

 この輪廻に抱かれ
 ちっぽけ。


自由詩 ちっぽけ Copyright 田中修子 2020-12-27 03:51:09
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