団欒
道草次郎

だいぶ昔の話
家族みんなが待ちに待った鍋の時間だった
なんとなく付けたテレビの報道番組で
ボスニア紛争下での性的暴動に関する特集がたまたまやっていた

インタビューに答える女性のただならぬ眼差しに引き込まれ
気付くといつの間にか
チャンネルを変える機会を逸してしまった

それまでの陽気な雰囲気はどこへやら
どことなくみんなぎこちなくなり
鍋をよそうオタマがカチカチ当たる音と
皿をテーブルに置く時の音だけが聞える

誰もチャンネルを変えられない
誰もチャンネルを変えようとはしない
変えてしまっては
いけないような気がして

鍋は美味しい
でもなんだか美味しさ半減ですこし損したな
って
そんなことずっと思いながら

いつ終わるかな
いつ終わるかなと
ずっと思いながら黙々とみんな鍋を食べている

そんな夜もあったな

生きてるとそんな夜もあるよなあ

ときどき思い出したりして





自由詩 団欒 Copyright 道草次郎 2020-12-19 23:01:14
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