冬のシネマ
石瀬琳々

ガラス越し
ひとつの思い出が横切る午後
指をのばしてももう届かない影よ
その横顔はいつか見たシネマ
唇が動いて――と言った

    
    蒼いカモメの夢を見た
    夜明けの波濤を翼で風切る姿を


    微笑みだけが慰めのはずだった
    今はあなたのまなざしだけが


風のドアをひらいて
かかとを鳴らし歩いてゆく
革の手袋をはめる淋しげな背中よ
その後姿はいつか見たシネマ
指が動いて――と言った


    記憶の海ははるか
    蒼いカモメを胸のうちで飛ばした


    あの歌をいつも口ずさんでいた
    雑踏のなか 光射すほうへ




自由詩 冬のシネマ Copyright 石瀬琳々 2020-12-12 11:45:37縦
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