種崎海水浴場
北村 守通

 浜よ
 あなたは
 これほどまでに
 ごつごつとして
 来るものを
 こばみつづけていたのか
 
 浜よ
 あなたは
 これほどまでに
 えぐれて
 どん深で
 とらえたものを
 転がし落として
 引きずり込んでいたのか

 あなたのことを
 すっかり忘れてしまっていたあいだ
 あなたは
 せっせと
 年月を掘り
 私とあなたは
 互いに交じり合うことなく
 それぞれの
 年月を掘り
 それは
 実のところ
 互いに共通の
 法線を持ち続けたがゆえに
 平行を保ち続けた
 ということにほかならないであろうが
 この
 途方もない年月の間
 
 浜よ
 あなたが
 私の年月を
 えぐり取る
 その質感にふさわしい
 痛覚を持ち合わせぬことに
 とまどい
 わざとらしく
 のたうちまわってみても
 ふさわしいものは
 得られない
 バランスを保つのに
 必要なモノは
 得られないから
 きり
 きりり
 
 浜よ
 あなたは
 私を
 深くえぐり取り
 浸食する
 私は
 細胞の
 ひと粒
 ひと粒を
 むき出しにされ
 原始的な
 細胞の
 ひと粒
 ひと粒を
 荒々しく
 むき出しにされ
 滑らかさを失っていく
 そして
 やさしい肌触りが
 削り取られて
 失われていくたびに
 減価償却されて
 資産価値を失っていく


自由詩 種崎海水浴場 Copyright 北村 守通 2020-12-03 01:57:28
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