化石化した堆積物
道草次郎

空の治療


空に絆創膏をはりました。そしたら雲が来てもくもくもくと絆創膏を剥がしてしまいました。もう一度はると、また雲が来て同じことがおこりました。

クリーニング屋


接続詞をクリーニング屋に出したら代わりにリネンが戻ってきました。肌触りはいいのですが使い用が分かりません。どうしたかものかと困っています。ポケットをまさぐるとなぜかいつも接尾語あるのですが何故でしょうか。無重力空間の夢を見ることはもうできないようです。

ハクビシン


土曜日はよくハクビシンになります。テラテラと濡れたこの鼻は麝香猫科の眷属の証。道路標識と自動販売機と花時計の影で、ハクビシンの三兄弟の末っ子として夜が来るのを待っています。


下降士


白亜紀末期の大型爬虫類の大脳組織の切片へ下降中。連絡を待つ。竜頭蛇尾、気閘室へ浸潤。ン?通信不調か…、ザザ、ザザザ…西暦4053年の考古学ナノボット数体を発見。収容ののち解体##。

『牧神』という東屋


ああ、ここは山椒魚の島。『牧神』と名のつく東屋に、詩聖と発光生物と標準型の象牙捕りの三人が密談をしている。何百体もの宇宙航空機が飛び交うモスグリーンの空からはエタノールの雨がパラパラと降っている。詩聖曰く『ぷりーず・だうん・ひあ 』、象牙捕り答えて曰く『水晶海竜の歯神経で編んだ首飾りはお前には遣らん 』、たゆたう発光生物は余裕の無言を貫く。


トビウオ


主語を殺してください。そしたら飛魚が空から降ってきますから。聖なるものはみな乱丁。寡黙は錨です。広洋の真ん中では直下型の湯煙ばかりが昇ればいい。そんな東雲に神の駐屯地はあるのです。

羊歯世界


輻輳する羊歯類は隕石の詩想の残骸なのです。病んだ森は完璧な平等をたもち、黒ずむ岩に座ると深緑の観想が後ろから抱き付いてくる…。ジュラ室の図書期は今、膨大となりつつあります。礁湖の名残りの上に後世の堆積燃料(=私)が立っていることが認識せられれば、風は靱帯もろとも優しく断裂されてしまう筈です。


学者と家庭


ライフワークを妻に淹れて貰い、朝の書斎のジャングルで啜るキリマンジャロ珈琲は美味い。従兄弟たちは絵手紙のエッフェル塔に暮らしているそうだ。いや、幽閉だったかな。弟は熱帯に嫁入りして、椰子の木に渡したハンモックでネオテニーと荘子を学んでいる。子供たちはダイニングキッチンのテーブルの下にずっと隠れて驟雨を凌いでいる。アリスいらっしゃい。そろそろママも帰ってくるから。羊皮紙の巻物が列ぶ書棚からメタフィジカルの烙印を取り出し、書きかけの原稿へ新しい薪としてくべてやる。まあ、それが仕事というわけだ。死んだ母の視神経で編んだセーターの袖が黒檀の机に触れる。ゾッとして世界観は一瞬唯物論に仮装をしてしまう。背中に凭れた罪深いもう一人の学徒はパイプの紫煙のたゆたう先で自慰に耽っている。思い出すのはロジカルハイのメタンフェタミン。一種の動物として具現し、ついぞ家庭に鎬を削っている、それが私だよ。


自由詩 化石化した堆積物 Copyright 道草次郎 2020-11-21 22:40:46
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