どこまでも透明なルビー
アラガイs


ドアは開いたままにしておいた
大型の遺体処理装置が台車に引かれ入りやすくするために
小さな窓からレース越しに薄く幅を調整したLEDの光が差し込んでいた
朝だ!ピクセル形式に時間は感覚に標す。肌触りのいい合成素地のシーツ
今日も大気は赤茶色に染まるだろう
息もなく仄かにアーモンドの香りを携えてアランは眼を閉じていた
摂氏30度を下る体温の、青白い肌に浮かぶ赤黒い火列の脈筋
生き急ぎ窪んだ骨、その間接の狭い軋み、それは春の乾ききった氷河のように硬かった
 あと数時間後に彼の生命は尽きる  ありがとう
わたしは流れおちていく涙で指先を湿らし、もうピクリとも動かない唇に押し付けた
冷凍保存のまま精子から生まれた第1世代初期型クローンのわたし
その時にこれは使命なのだと自分には言い聞かせていた
しかし永遠の別れなのだ、意識すればするほど、この哀しみを抑えるこのできる人間はいないだろう
これが感情という電気信号を自ら遮断した想像上の悪魔ならば話しはべつなのだが

アランと名付けたのには意味がある。
その昔叔母の好きな俳優の話しを母から聞かされたことがある
わたしが生まれてまだ地球にいた頃だった
クローンは生まれてわずか10年でその生涯を閉じる
否、生まれたときからその生涯を閉じる日は決まっていたのだ。
Aiにつながれたシナプスの空間
立ち上がると三年でわたしの知能を遙かに超えていた
 ( ケン、なぜか深い海の生物が行き交う夢をよくみるんだ )
1年前からそんなことをよく呟いていた
   ( 僕は母体というものを知らないからね。)
同じ顔を持ち寸分と違わない肉体を持ちながらみる夢だけは異なっていたのだ     アラン  
第一世代の記憶がどこまで遡るのか、わたしたちはまだ答えを見つけ出せてはいない
第二世代のクローンには人工母体という技術が添えられた
ときどき在りもしない神秘的な体験の夢を吐き出しては人間たちを戸惑わせている
燃える惑星の冷たい塵から造り出された透明なルビー
そろそろ時間だね。
赤茶色窓の外からエアーパーツの噴出する音が聞こえる 。






自由詩 どこまでも透明なルビー Copyright アラガイs 2020-11-20 23:51:52
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