栗のスープ
ふるる

いつしか、
日は暮れていて足元は寒くなった
ももに置いた手は静かに落ちた
しばらく眠っていたらしく
目の前で遊んでいた子たちも
いなかった

こうして一人の時間が増えたかわりに
雨や落ち葉が隙間を埋めに来る
なかなか上手くできていて
窓辺に座って黒ぐろと光るカラスを見たり
夕陽を薄い頭で受けたりして
退屈はしていない
ほとんど何も考えずに夕食の支度はできる
毎日作っている
気がついたらできていることもある
少なからず
できる料理は増え
ケチャップやマヨネーズなど足してみては
やめてみたり

来る日も来る日も不足のことで困るけれど
劇的な変化や改善策はなく
日が落ちれば
生きる仕事はとりあえずこなしたといえる

身体は老いの盛りの登り坂
中身はがらがら
焦りや不安がいまだに寄りそって
欠けた茶碗が気に入っていて捨てられない

笑い
泣くたびに
激しさはなくなりほわほわと幼子の髪のよう
小さな君が何かよく分からないものをプレゼントしてくれて
分からないなりに嬉しいことが嬉しく
熟練の技という感じ
生まれて初めて生の栗から、
モンブランを作ってみた
ゆでて、くりぬいて、混ぜて、木べらで裏ごしして
こんなに頑張ったのにまだ
木の実の味しかしない
ラム酒を入れてやっとモンブラン
あの味ラム酒だったのか
買いすぎた栗にも発見の二文字
何十年生きてもやったことがないことには初めての沸き返り
つくづく見る栗はつやつやのカブトムシの良さ
栗のスープとやらも作りたい

そうこうしているうちに十一月

と思っているうちに十二月
よくわからなかったプレゼントは
逆さにして後ろから見たら人だった

焦り、不安、おびえ、
雪山を凍りながら下る川の水のように
鋭利で駿烈な感情
それらは今しかない
無駄なことは浴びるほどしたらよくて
後悔しても忘れる時が来る

生きる仕事といえば
食べ物、言葉、自分自身を
入れては出す単調な作業
シンプルな中に熟練の技を光らせ
生ゴミは夏場は凍らせておき
プラゴミは細かく切り
楽しめるのかどうか

今は何も楽しくないだろうけど
羨ましい
その
自らを否定し斬りまた縛る力の強さなどは
自分のことばかり考えるというのは
叶わぬ恋をしつつも希望は捨てていないようなもの

君の身体は光っている
暗闇だとよく分かる
言わなければ分からなかったか
悲しみで身体を包んでいる
贈り物みたいにしていたら
誰かに届いただろうか
喜んでもらえただろうか
記念日のように

きれいな人の心を読みきれずに
とんちんかんな受け答えで笑われた
そんなようなものが
心に残っているからいつまでも眺めている

健康診断の途中で帰って来た
そういう人でいっぱい
街は健康とは関係がなく
赤と緑の点滅が震える
やがて
白く凍る
胡桃もひとりでに落ちる

幼い君には重すぎる願いだろう
忘れないで欲しい
何かを
何であるかとたずねたこと
その疑問符
よくわからない人の形

いつしか、
秋は暮れきった
冬がまた始まる
君と同じくらいの頃は毎冬
バケツの水に張った丸い氷を外して
叩き割ってから学校へ行った
毎日だった
やらなくなったのはいつだか
何故だか

診断の結果に興味はない
目が年々しぼんでいくのは困る
そのうち閉じて枯れ落ちる
まぶたの
花びら

数少ない友人にとり残されて
残された日々
足りないものを埋めようとして歩いている人の側へ行く
誰もが無言だよと
誰かが言う






自由詩 栗のスープ Copyright ふるる 2020-11-14 22:51:20
notebook Home 戻る