雷を髪に飾ることはできる
ふるる

雷を髪に飾ることはできる、とあの人は言いました。
プラスチックの黄色い髪留めのことかと思いました
あるいは単なる冗談なのかと

朝食は取らない主義で
それはお腹が弱いから
薄紫の傘が立て掛けてあり
雨の日は思い出します
話の前後がわからない
話がよく飛ぶ
それだけで疎まれた

マフラーは黄色が似合っていた
冬は何かと寒いので
おでんの煮たまごが嬉しい
正解はここにある
温かいおいしさの上に

小さい頃から知っているとはいえ
空白が長い
共通の思い出をもてあましている
子供の単なる冗談など

風が囁きから嘆きにかわり
また冬でした
冬になると思い出します
小石を蹴りながら帰る癖
今はどこかにいってしまった癖
手を繋ぐのをためらったのはどちらから

工場夜景見学に誘われて
重たいカメラに触らせてくれた
誘える人が他にいなくて
夜は怖いから
夜をいつまでも怖がる
震える手を繋いで少しだけ
歩きたかった

今度はこちらから誘おうかな
理由は何がいいだろう
一人ではだめな理由
二人三脚とか

ぐらついた三脚を押さえてもらって
天井に星をぶら下げた
文化祭はお化け屋敷が人気
うちのクラスには閑古鳥が鳴くけれど
別にそれでよかった

学食のおにぎりは唐揚げにぎりがおすすめ
ご飯に唐揚げの味がうつって美味しいから
絶対に食べてね
それから

缶のココアを間違えて買ったからと言ってくれた
好きだけど
缶のココアはめちゃくちゃ甘い
残りが残ったまま持って帰った

冬なので息も白く
マフラーに半分顔が隠れて話しやすい
目をそらしがちだけど
見ていたかった

世界史の教科書
生物の図解
電子辞書
出ない赤ペン
一緒に居眠りしている

後になって気づく
穏やかな時間だったと
よく思い出せないけれど
マフラーは黄色で
口が埋もれて見えなかったのが
良かった

泣き顔を見たときに
親しい関係でないことがこれほどつらいとは知らなかった
すぐに触れて慰めることができない
理不尽な不自由

ココアの缶がまだとってあって
べつにプレゼントされたわけでなし
捨てればいいのに
いつでも捨てられるから
なんて

だって温かいからね
そういう気持ちとかは
誰にでもは無理で
多分ずっとあって
だから捨てない

多分この困難を乗り越えたら
ずっと成長できているだろう
悲しみの中でも笑えることを覚えて
少し
もう少し

ここは観光地で秋はにぎやか
バス停に人だかりができて
乗れない人は呆然とする
なんてことは地元の人なら知ってる

何度聞いても内容が分からなかった
電子工学を新しくするための研究の研究って
役に立つのかどうかは
きっと生きているうちはわからない
でもするんだ
誰ががやらないとね

マフラーについた雪の結晶が
すぐに消えてしまう
思い出はそんなふうだから
何度も思い出して作り直さないと
でもどこかには残っているから
引っ張られるのだと思う

触れていい許可を得るために告白するんだろうけれど
一番は泣いているときに慰めたい
その役目を担いたい
何故そんなふうに思うんだろう
自分ではない人なのに
ただ知っている人で
笑いかけてくれるというだけなのに

大学も就職も離れた場所で
久しぶり過ぎるくらい久しぶり
変わっていなかったのは
嬉しいし不思議
相変わらずお腹は弱いのかな

約束の雷
と言ってあの人はわたしの髪に触れました。








自由詩 雷を髪に飾ることはできる Copyright ふるる 2020-10-28 09:37:32
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