霊感体質の先輩看護婦さん
板谷みきょう

病院に勤務していた頃
「私には霊感があるの。
霊感体質なんだよねぇ。」と
言っていた独身で年配の
先輩看護婦さんがいた

ボクはその看護婦さんと
夜勤をするのが
凄く苦手だった

それは
病棟巡回の時とかに
男の子が佇んでるのが見えたとか
休憩室の棚に女の人が座ってるとか
平気な顔をして
言い出すからだった

日中あんなに元気だったのに
夜間になって容体が急変して
治療努力の甲斐もなく
亡くなってしまう患者がいる

そんな時に
当直に当たった医師も大変だろうが
夜勤に当たった看護婦も
そりゃあ大変なのだ

申し送りの時に
●●号の患者さんは危ないみたいよ
そんなことを
霊感体質の看護婦さんは
口にすることもあったけど
危篤状態の患者がいる時には
死に関する言葉を口にしないことは
暗黙の約束だったりしていたのに

      霊安室で“エンゼルセット”を持って
      死後の処置を任された時には
      遺体と二人きりになり
      線香を焚いた後に
      日中に元気だったことや
      夕食を口にしてた時のこととか
      点滴を抜く時や綿を詰める時にも
      つい話し掛けながら処置をしていた

病棟巡回は
各病棟で行っているのだが
院内で
妙な噂が立っていたことを知った

霊安室の階を巡回していたら
線香の匂いがしていて
話し声が聞こえてくる
そして
必ず翌朝には
亡くなった患者がいる

病院理事長の耳にその噂が入った頃には
放置できない状況になっていたらしく

事務長が
今度、病院で浄霊供養をすることになった
費用が三十万円も掛かると嘆いていた

かの看護婦さんまでが
色めき立って浄霊について語り出し
病院事務、医局、薬局、病棟の
医療関係者が参列する中
無事滞りなく
浄霊供養は執り行われた

暫くして事務所で見付けたのは
病棟の夜勤看護婦の噂の
聴き取り記録だったのだが
何気なく日付を見てたら

あれっ⁈

霊安室の近くの不思議な現象を
噂してる夜勤看護婦は
みんなボクとは別の病棟勤務だ

日付を追うと
ボクが夜勤で死後の処置を
していた夜だった

そうなのだ
ボクが亡くなった患者に
話し掛けながら処置をしていたのが
原因だったのだ

三十万円の供養費用のこともあって
ボクは
病院を辞めるまで
そのことは黙っていた

霊感体質の先輩看護婦さんは
ボクが辞める前に
出勤しなくなり
アルコール依存症で入院してしまった


自由詩 霊感体質の先輩看護婦さん Copyright 板谷みきょう 2020-10-25 15:31:34縦
notebook Home 戻る