一宿一飯の恩義
板谷みきょう

伊達の喫茶店で唄った後に
店主に紹介されて
火山灰を釉薬にしている陶芸家の居る
洞爺湖に向かった

あの時
何か手土産を持って行ったと思うが
何だったのかは覚えてない
けれど
当時は千五百円位の地酒を土産に
世話になることが多かったから
きっと、一升瓶を
持って行ったに違いない

折角
洞爺湖に来たのだからと
投げ銭欲しさに
汽船の時刻表を見て
上下船する客の懐を当てにして
桟橋で放歌し始めた

行き交う人は大勢居たが
30分毎の運行時間に
追われているように
立ち止まる人は誰一人なく
いつしか
ボクは洞爺湖の中島に
届けとばかりに唄っていた

結局
ギターケースには
ボクが入れていた五円玉だけで
一時間ほどで放歌を終えた

着替え片付けている時に
声を掛けてくれた男性は
近くで木彫りの民芸品を
販売していると言う

流石歌う人は声が大きいねぇ
お時間があるなら
店に寄って行きませんか
近くだから

案内された民芸品店は小さく
木彫りの作品が溢れていて
圧倒されていたボクに
奥から引っ張り出してきた
40㎝程の木彫りのフクロウを差出し
木彫作家は
熊や二ポポが売れなくなって
初めて彫ったフクロウだけど
売り物にはならないから
良かったら貰ってって

そう言って包装紙にくるんで
手渡してくれた

そんな寄り道をして
陶芸作家のお宅を訪ねた

そこでも
火山灰の釉薬を使いながら
失敗した器などの作品を
陶芸作家の名を伏せることを条件に
段ボール箱に三つ貰った

そして
翌日、道南に向かって
焼き物を知人のショップ土産にして
車を走らせた

・・・・・・・・・

木彫りのふくろうは
今も
埃を被りながら茶の間に
置かれている


自由詩 一宿一飯の恩義 Copyright 板谷みきょう 2020-10-25 13:17:20
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