チェーン脱着所にて
道草次郎

山あいのさみしい川べりの
物置小屋の青いトタン屋根の上に
紅葉したもみじが
五六枚かかっていた

大町の山間部の秋は
ダム湖の水面に近い方から色付く
楓が黄色く
イロハモミジはわずかに赤く

動こうとしない湖面に水鳥が
大人しいみなおを残し泳ぐのが視えた

よく失くす情緒が
たまにこうして千秋の風に乗って来る

横木に座っていると
風の連れてくるとりどりの色で身が染まる

とても長く
大人になれなかったけれど
あまりに長い日々を
みえないものに捧げてきたけれど

やっと泣けた

深まりつつある秋の袖口が
人肌の水に濡れ
ゆるすもゆるさぬも無くなり
道行く人の姿を
くるしさなく見ていられた

もう
詩は書かなくても会いに行ける
そんな気がしていた






自由詩 チェーン脱着所にて Copyright 道草次郎 2020-10-18 20:49:59
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