チェーン脱着所にて
道草次郎
山あいのさみしい川べりの
物置小屋の青いトタン屋根の上に
紅葉したもみじが
五六枚かかっていた
大町の山間部の秋は
ダム湖の水面に近い方から色付く
楓が黄色く
イロハモミジはわずかに赤く
動こうとしない湖面に水鳥が
大人しいみなおを残し泳ぐのが視えた
よく失くす情緒が
たまにこうして千秋の風に乗って来る
横木に座っていると
風の連れてくるとりどりの色で身が染まる
とても長く
大人になれなかったけれど
あまりに長い日々を
みえないものに捧げてきたけれど
やっと泣けた
深まりつつある秋の袖口が
人肌の水に濡れ
ゆるすもゆるさぬも無くなり
道行く人の姿を
くるしさなく見ていられた
もう
詩は書かなくても会いに行ける
そんな気がしていた