黄色い蝶 
服部 剛

鎌倉の甘味処・無心庵の窓辺で
手の届きそうな垣根の外に
緑の江ノ電は がたっごとっ と通り過ぎ 

殻を割ったピスタチオの豆を
口にほおばり、かみしめ 
麦酒を一口

また窓外に
江ノ電は通り過ぎ 
豆と麦酒を、もう一口 

――かつてこの店を友と尋ねた
  あのひとが病で世を去り、時は流れて

夏の終わりの由比ヶ浜
今日も波は遠くへ
すう…と引いてゆく

ふいに踏み切りが
かんかん、鳴りだす

ガラスの机に映る空に
夕染めの雲は流れる

いつのまにやら…麦酒に頬は赤らみ
からだを脱いだあの女の
懐かしい笑い声 心に響く 

店の外につるされた
「氷」の布は、風にはためき 

通りすがりの酔いどれの
目蓋の裏に
黄色い蝶のおもかげが
横切った 














自由詩 黄色い蝶  Copyright 服部 剛 2020-10-05 18:01:01縦
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