夏を慰撫する歌
帆場蔵人

何も誇るものはないというのに夏と
誇らしげに肩を組みまた来年と囁いた

飽きれるように笑って夏が歩みさって
中央通りの真ん中に蝉を落としていった
入道雲を墓に見立てて空に還してやれば
雲たちは鰯に羊に狼に蝉に姿を変えて

秋桜の蕾の口元をほころばせる
それを指差して秋口と微笑んで
日捲りカレンダーを散らす少女

それは秋のいたずらな陽気を生みだして

道ゆく人の捨てる扇に書かれたちいさな秘め事
少女がめくるトランプのスート琥珀の開きかた
千年の後に置かれる椅子に座り朗読される悲しみ
それぞれがそれぞれの呼び方でそれを秋に囁いて
また来年また来年またおいでと夏を慰撫すれば
ますます秋は秘密を胸にして謎めいていく


自由詩 夏を慰撫する歌 Copyright 帆場蔵人 2020-09-18 15:20:23
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