あなたの心が今ある運命を受け入れられず、これから来る悲劇をも自分で決められないことに絶望したなら。
竜門勇気

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僕の心はいっとき無茶苦茶であった。
どんなときでも平坦な感情であることに憧れていたが、それは僕がそういった人間でなくそういった人間にみえる人々が幸運に支配されているように見えたからだった。
4年前の夏に父が死んだときだ。抗うことができない運命のようなものを約半年間そばに置いていてそれが当たり前のように僕から奪い、与えたものを覚えている。
医師が、もうすぐです。と言うようなことを喋った。雷がなった。夕立が来る気配の中病院に詰めていた母を呼びに病院の外の喫煙室に走った。
昼間だというのに暗く雲が立ち込めた日だった。病室を飛び出したときまだ窓からはそんな世界があるだけだった。
救急受付の横のドアの前でガラスの向こうが土砂降りになっていることが分かった。雲の上に太陽がある。それがわかる。空は雲で蓋をされているが、その厚さはところどころ薄くてそこから差し込む光がどこから指しているのかわからないぼんやりした明るさを放っていた。
「もう、おわりだって」僕は母に言った。母は突然殴られた女の人みたいな顔をした。ある日世界で自分以外の人間がひとり残らず死んでしまったらきっとこんなふうに振る舞うのだろうというふうに立ち上がった。妹に電話を掛ける。めいいっぱい早く歩きながら。
どうしたら正解かわからない。正解を選び続ければこんなざまにならなかったのか?
低く声がする。「すぐいく」5分後もう一度電話を掛ける。一週間眠り続けた父に、これからも眠り続ける父に声を聞かせるために。

父は死んだ。
その日のうちにあちこちに電話した。
父の意向で沢山の人が突然の訃報を聞く羽目になった。
葬儀に来た上司に「明日は出社します。」と言った。少し慌てた顔で「何言ってるんだ、一週間は最低でも休みなさい。」と返された。
僕の社会経験は薄っぺらでこれからどれだけ忙しいか分かっていなかったのだった。
香典返し、相続、親戚づきあい。親戚が去ったあとの静かな夜。父が持っていたアパートメントの莫大なローンの引き継ぎ。
これからも伸び続ける休耕田の雑草。ちゃんと教えてもらえなかったトラクターの動かし方。トラクターに火を入れるために雑草をかき分けるとマジックで「天井に注意!」と
書かれたダンボールの切れ端がシートに置かれていた。
そこに立ち尽くして時々泣くことにした。静かさが僕の内側から湧いて出る。蛙の声もコオロギがなく声も聞こえない。父の声を思い出して僕を励ます言葉を想像した。
うまくはいかなかった。

そうして僕は1d100を振るようになった。
もう分かった。僕の運命に関して言えば、僕は無関係だ。
きっとだめだったらだめで、よければいいんだ
TRPGみたいにシンプルな合否判定しかないんだ。
明日、僕はきっと目を覚ます。目覚ましがあるから、成功は90ぐらいはあるだろう。
1d100。ダイスロール。41。OK。
困難な仕事だけど、きっとうまくいくさ。でも突っ込まれたらやばいとこを残してしまった。成功は30。
1d100。ダイスロール。32。やっぱりだめかもな。
僕が大好きなあのこ。きっと彼女も少しは好きでいてくれるはずさ。75、いや80でもいいかもしれないな。
1d100.ダイスロール。100。ファンブル。致命的失敗。だからって嫌いになれるのか?
分かってるよ。迷惑にならないようにしなきゃ。
毎日繰り返す1d100が確率論の収束を裏付けする。
いい日があって悪い日がある。
父が残した僕への言葉は3つ。「一生懸命やってるとだいたい大丈夫。」「(死ぬのは)仕方ないだろ?」「***を(母。普段はお母さん、と呼んでいた。)頼むな。」
父は幸せだったのか?死のあと僕らは再び出会うのか?
1d100!1d100!

僕は大好きなあのこが結婚したとき、ようやくこの悪癖をやめた。
仕事に行く前にカラコロと音を立てるスマートフォンを見ていて、結局は自分が他人の不幸でなれるわけもない理想の人物になれる可能性を高めたいと祈ってるのだと思い始めたからだった。
でも、その実感を得るために必要な期間であったのだと思う。
僕は誰かがいる場所が羨ましくて、その立場に立ってもないくせにデメリットを無視できる鈍感さを持っているのだ。
それを変えることがとても難しいとしても自分がどういう人物かの評価を持つことは大事だ。なぜなら、他人から受ける評価をある程度コントロールできるからだ。
自分が人間であることを自覚しなければ、パンダを騙すことも、トキを騙すこともできない。
僕は、今、このサイトを使わない。いや、時々友人とTRPGをやるときに使うぐらいだ。
でもこのツールをおすすめしたいのは、先に述べたように「運命」とやらは「成功率」と「ランダム」の何らかの結果に過ぎなくて、そこに見出していること、自分が何を知りたいのかってこと、その体験が何かあなたにをもたらすと思うからだ。
僕はこんな袋小路に入って、そして入った場所から出てってたのかもしれない。
いまは、リアルなダイスを買ったのでそれでやってます。
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