コンデンス
平井容子




母は、
なまえはつけないほうがいいよ
と冷蔵庫にむかって
言いつづけた

寝ているときは
ずっと怒っている
車をひっくり返し
おとこを犯し
ベランダに放火し
エレベータをさかさまに走った

・電子レンジの中で
・沸騰しつづけるミルク

3LDKの王国の
昔話はここらへんでおしまいです
たしかに、
なまえがなくてよかったと
安心した日々もあったかな

・回想はいつも
・突沸する

わたしたちは
かつて自分より
はるか尊かった夢の前で
例外なくむくんでいて
安心しながら
のどを焼くあまさに
いつもなだらかに狂っている



自由詩 コンデンス Copyright 平井容子 2020-09-16 00:05:34
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