その時その瞬間〇寂寥と平静
ひだかたけし

逃れ去っていく
逃れ去っていく記憶の
その核心を掴もうと
広がる鉛の海を泳ぐ、泳ぎ続ける
 
 失われた薔薇の花と団欒
 終わった関係と更地
 虚脱の時を刻む秒針

静まっていく
静まっていく魂の内実を見極めようと
開ける暗黒の宙を漂う、漂い続ける

 消えた赤い舌と墓石
 現れる問い掛けと透明な流体
 永続の時を移動する銀河

〈自由は魂の積極的な内的活動だけにあり
外界に依存する限り
オマエは絶望と希望の円環をループし続ける〉

その時その瞬間、私は何かを体験した
その時その瞬間、私は何かと一体化した
思い出せない思い出せない

思い出せるのは、
遥か遠く黄金に輝く巨大な岩塊
濃淡紫の雲に包まれた黒い太陽
それに熱い熱い祝福の抱擁
ただそれだけなのだ。







自由詩 その時その瞬間〇寂寥と平静 Copyright ひだかたけし 2020-09-06 22:48:40縦
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