抄えずに 抄えずに
木立 悟








夜の泡の音
虫も草も聴こえぬ径
遠く流れる星の瀧
夜の泡の音


欠けた鏡
隠れた鏡
持つ手が映る
夜も映る


発つ光
着く光
手のなかの氷
雨を呼ぶ痛み


けして重ならぬ手のひらを
重ねようとする手のひらがあり
触れようとする度に透り抜けながら
それでもそれでもかたちを重ねる


雨の影が残り
次の雨を指す
呼ぶ声はふたつ
午後はまだ遠い


紙の森が足首に触れ
歩みの途中のしるしを残し
曇の筆は水
平衡に歌う


花と草は揺れ
一日を語り
どこまでも一人の切符
誰に見せることもなく


合わせても 重ねても
抄えるものは限られている
見えない雨ひらく
見えない手のひら




















自由詩 抄えずに 抄えずに Copyright 木立 悟 2020-08-14 19:30:04
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