Scenery
メープルコート


 新しい風は窓辺を抜けてこの部屋に一枚の若葉を寄こした。
 柔らかな音楽に私の心がハミングしている。
 描きかけのキャンバスはひっそりとそこに佇み、
 次の一筆を黙って待っている。

 熱いコーヒーを片手にテラスへ出ると、林の緑は深く、神秘に揺れている。
 見上げると空は青かった。
 涼しい風の通り道に鳥たちは歌い、見えない笑顔で溢れている。
 どこかではしゃぐ子供達の声が聞こえた。

 教会の鐘が鳴る。
 どこかの誰かが幸せを祈っている。
 心は高揚し、私も祈らずにはいられなかった。

 今生まれたばかりの風が私の体を通り抜けた。
 新しいこの一瞬を逃さないように手を広げる。
 記憶が記憶によって美化されるように。
 


自由詩 Scenery Copyright メープルコート 2020-08-13 04:17:08
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